本研究では, まず聴覚系フィルタモデルを用いたシミュレーションにより, 周波数選択能力の加齢劣化が雑音下における母音ホルマントの知覚を困難にし, ホルマント帯域幅の縮小が同劣化の補償に有効であることを確認した. 次に, 合成された日本語の5母音からなる無意味語を, 雑音下で若年群および高齢群被験者に提示する実験を行った. その結果, ホルマント帯域幅の縮小およびピッチ変動の付加 (音素ごとにピッチ周波数を変える) は, 高齢群が無意味語の判別に必要とするSN比を各々平均2dBずつ低下させた. 以上より, ホルマント帯域幅の縮小およびピッチ変動の付加が, 騒音下における音声聴取能力の加齢劣化を補償する方法として有効であることが示唆された.