これまでの研究では主として声帯特性中のパラメータであるピッチ周波数や音長, 振幅が聞き手に伝わる感情に寄与していると考えられてきた. しかし, それらのパラメータだけでは“喜び”の感情を十分に表すことができなかったと報告されている. そこで本研究では,“喜び”の感情を判断するときに用いられているパラメータが声道特性中に存在するのかどうかを確かめるために単母音 [え] の“喜び”の感情を表す声道特性と“驚き”の感情を表す声道特性を比較した. その結果,“喜び”の第1, 第2ホルマントは“驚き”ものよりも大きく,“喜び”第3ホルマントは“驚き”のものよりも小さかった. 実際に無感情な単母音 [え] からこのパラメータと以前に用いられたパラメータを変化させることによって合成音声を生成し, 聞き取り実験を行った. その結果, 聞き手が“喜び”の感情を判断するのにこのパラメータを用いていることがわかった.