規則的で単調な音の連続であるクリック音, カオス的間隔で発生する琴の音色に似た水琴窟音および広範囲にわたる周波数ゆらぎと強度ゆらぎを含む音楽という, 性質の異なる3種類の聴覚刺激を与えたときの脳の感情応答を検討する. 前頭葉と左右側頭葉における脳波に対してスペクトル解析およびカオス解析の手法を適用し, 脳の活動状態の変化を定量的に特徴づける指標として,α波リズム強度と相関次元の経時変動を評価する.α波リズムの強度は, クリック音刺激により減少するが, 水琴窟音および音楽による刺激では顕著な増大を示し, 脳の快適な感情応答の指標となり得ることを示唆している. 聴覚刺激中における相関次元の変動は, クリック音で最も小さく, また, 水琴窟音で最も激しくなっており, α波リズム強度の増減にも反映している. 脳の快適な感情応答は, 脳の活性化された状態と不活性化された状態間に, ある種のダイナミックな変動をもたらす刺激パターンにより引き起こされるものと考えられる.