2020 年 47 巻 2 号 p. 128-137
人工心肺の安全対策は環境改善に重点が置かれており、人間の認知的側面はあまり考慮されてこなかった。人工心肺操作者は状況認識を繰り返している。状況認識は情報の知覚と理解、将来の状況予測で説明される心理学的構成概念である。安全向上のため、操作者の状況認識を支援する必要がある。本研究では、危機的状況で使用されるクライシスチェックリストがトラブル対処中の操作者の状況認識にどのような影響を及ぼすか検討した。24名の操作者が実験環境でのトラブルシミュレーションに参加した。本実験ではシミュレーションシナリオ4種類とクライシスチェックリストの有無を独立変数、各条件における状況認識の知覚・理解・予測のスコアを従属変数とした。結果、トラブル対処中の状況認識スコアはクライシスチェックリスト有り条件のほうが高かった(p<0.001)。トラブル発生頻度別の検討では発生頻度高群(p<0.05)、発生頻度低群(p<0.001)で、発生頻度が低いトラブルでより状況認識を向上させる効果があった。人工心肺中のクライシスチェックリストの使用は、状況認識を支援することで人工心肺の安全を向上させる可能性を示唆している。