体外循環技術
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原著
人工心肺管理中におけるクロール投与量と術後急性腎障害(AKI)発症との関連性
吉田 諭沼田 智山崎 祥子板谷 慶一畑中 祐也八木 克史手良向 聡夜久 均
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2020 年 47 巻 4 号 p. 311-320

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抄録

[目的]人工心肺(cardio pulmonary bypass:CPB)を使用した心臓手術術後合併症のひとつに急性腎障害(acute kidney injury:AKI)があり、その発生率は15~30%程度と高く、また予後は悪いと報告されている。クロール(chloride:Cl)は電解質の一種である。Clそのものは、腎血管収縮を引き起こして、糸球体濾過量低下を招くことが動物実験では示されている。しかしながら、CPB管理中のCl投与量と術後AKI発症への関与を示す報告は見当たらない。そこで今回、CPB充填液およびCPB中に使用した各種輸液製剤や血液製剤からのCl総投与量をCPB管理中Cl総投与量と定めて、CPB管理中Cl総投与量と術後AKI発症との関連性の解明を目的として、後方視的に研究した。

[方法]2016年1月1日から2018年12月31日の3年間にCPBを使用し、大動脈遮断による心停止を伴った手術時年齢満18歳以上の開心術301症例を対象とし、CPB管理中Cl総投与量と術後AKI発症との関連性を多変量ロジスティック回帰分析により、統計解析した。交絡因子は、年齢、性別、術前体重、推算糸球体濾過量、CPB管理中灌流圧、CPB管理中酸素供給量指数最低値、CPB時間を過去の文献報告より事前に選択した。

[結果]CPB管理中Cl総投与量のカットオフ値を求めると18.0gという値を得た。このCPB管理中Cl総投与量のカットオフ値18.0gを用いた多変量ロジスティック回帰分析結果は、CPB管理中Cl総投与量≦18.0gのカテゴリと比較した場合、>18.0gのカテゴリが、術後AKI発症のリスク因子として統計学的に有意な結果(オッズ比:2.376、P値:0.037)を示した。

[結論]CPB充填液およびCPB中に使用した各種輸液製剤や血液製剤によるCl総投与量は、18.0g以下で管理された症例に比べて、>18.0gで管理された症例で、術後AKI発症率は高かった。

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© 2020 一般社団法人 日本体外循環技術医学会
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