抄録
【要旨】弓部大動脈瘤手術には体外循環は必要不可欠で,その病態,手術手技により送血方法,脳保護法など各施設様々な工夫がなされている。今回我々は,第一再建を大動脈中枢側から行われた弓部大動脈全置換術の体外循環法を検討した。症例は2003年4月から2004年3月までに行った弓部大動脈全置換術を施行した4例を対象とした。体外循環における脳保護法は選択的順行性脳灌流を用いた。本法は, coolingの時間を利用し,中枢側(大動脈基部)よりgraft吻合を行うため,弓部3分枝再建後,脳および心臓の循環を開始でき,大動脈遮断時間(心臓の虚血時間),脳分離体外循環を比較的短くできるなどの利点がある。胸部動脈瘤症例は高齢者が多く,大動脈遮断時間の長さが術後の心機能を左右するために,本法は有用であると考えられた。しかし,脳分離体外循環を含め,手術進行に合わせた様々な循環方法(1ポンプ2分枝送血など)により,各臓器への灌流量が規定できなかったこと,通常の術式と比べ復温開始が遅くなるなどの問題もあり,今後の課題となった。