本研究の目的は,奈田他(2012)を踏まえ,ネガティブ感情を含め,感情が,如何に個の知識獲得を促すのかを検討することであった。そのため,実験参加者(小学3年生)が示した考えを前半は否定するものの,後半は賞賛していくNP条件,その逆のPN条件,終始賞賛するPP条件というように,感情の生起のさせ方が異なる3条件を設定し,奈田他(2012)と同様の手続きで実験を行った。その結果,PP条件,NP条件,PN条件の順で,知識獲得が促されやすくなることが判明した。加えて,やりとりにおける思考上の積極性を示す指標に関しても,PP条件が最も高く,やりとりを通した知識獲得においては,相手の考えを賞賛することで,個の中に自他の考えに対する柔軟な姿勢を作っていくことが重要であることが判明した。ただし,ネガティブ感情にも,自身の考えを振り返り,見直させる働きがあり,NP条件のように,こういった働きを強化していくことで,知識獲得をある程度は促すことができることも判明し,ポジティブ感情による知識獲得の促しとは異なった過程で,知識獲得が促される過程があることも明らかになった。