教育心理学研究
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学童におけるOver-Achieversの人格的特性について
中村 政夫
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1964 年 12 巻 3 号 p. 166-176,191

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抄録

児童の学力を規定する内的な心理的要因としての人格的特性を決定するために, 特に知能と学力にずれのある over-achieversを中心として調査を試みた。学力は担任教師の評価による国語・算数の成績を利用し, 人格的特性は「児童指導要録」における13項目の特性と「精神的健康」における14種の特性について, 質問紙法により児童の自己評価による成績を調査し, 両者の相関を求めた。
被調査者は, 小学校4, 5, 6学年の児童で, 17校, 2330名を対象として, これを0群570名, N群1195名, U群565名の3群に分けたが, それは知能とのずれが1 段階以上に及ぶものを基準として, 主に担任教師の評価によつた。
結果は, 「行動の記録」と「精神的健康」の両側面における各種の特性について, 一般に, 0群, N群, U群の順に劣つていることがわかった。しかしそれらの差に 0群とU群の間においてのみ, 統計的に有意な差異が謎められた。これらの0群のすぐれている諸特性は, ひとつは人格的要因として, u群との間にx2検定を試みた結果摘出され, 他のひとつは, 人格的因子として0群の所有する基本的な人格特性を因子分析により抽出したものである。
これらの要因と因子を統合して, 0群を特徴づける行動特性 (「行動の記録」における) と人格特性 (「精神白健康」における) は, 次のように3種の次元にまとめられた。
第1は, 一般的な自我概念の次元に属する諸特性で, 0群の学習活動は社会的適応に関するよりも, 個人的適応に属する諸特性によりすぐれていることがわかる。それらは, 人格的要因としては, 10%水準のものも含めて有意水準にある特性は, 「2自主性」「5自省心」「6向上心」「12積極性」「 (5) 自己統制」の5特性で, 人格的因子として有意負荷量のもとに抽出されたものは, 「4根気強さ」「5自省心」「6向上心」「12積極性」「 (7) 思考的内向」などであつた。
このような個人的適応に現われる要因や因子をみると自省心, 自己統制のように消極的に学習を自制・自しゅくする面に現われる自我概念と, 向上心, 積極性のように自己を促進させる面を区別することができるが, 因子分析の結果では「自己統制の因子」ともいうべき前者に関する特性が第1因子として重要視された。
第2は, 情緒的適応の次元に属する諸特性で, 「 (4) 自己価値感」「 (8) 劣等感」「 (10) 感情興奮性」「 (11) 抑うつ性」「 (14) 神経衰弱」などの要因において有意な差異を示し, 因子としては, 「13情緒の安定」「 (4) 自己価値感」「 (9) 情操」において, 0群の優位が認められた。このことは, 0群は情緒的に安定し, その精神的健康の度もより健全円満であることを示している。
第3は, 社会的適応の次元に関する特性で, その要因としては, 「3責任感」「9協調性」「 (2) 学校適応」が有意水準のもとに摘出され, 人格的因子としては, 「3責任感」「 (1) 家庭適応」「 (6) 社会的・文化的教養」は第1因子として, 「7公正さ」「8指導性」「 (3) 社会適応」などは第II因子として抽出された。児童の家庭および相互の円満な人間関係は, 外部の刺激により支配されやすいかれらの心意を安定にして, 学習を健全に動機づけることになる。
以上を要約すると, 0群の学習能率と相関している人格的特性は, 行動および精神的健康の各種の次元にまたがって広範であるが, 第1に自我概念の充実していること, 第2に情緒的適応に安定していること, 第3に社会的適応の円満であること, の3点に帰するようである。

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© 日本教育心理学会
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