教育心理学研究
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肢体不自由児の目標設定行動における自己概念の安定性の役割に関する研究
栗原 輝雄
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1971 年 19 巻 3 号 p. 163-175

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抄録

本研究は, Somatopsychologyの見地から自己概念の安定性というパーソナリティ変数をとりあげて, 肢体不自由児の目標設定行動におけるその役割を明らかにすることを目的とした。設定された作業仮説は次の5つであった。
1. 自己概念の安定したもの (安定群) よりも自己概念の不安定なもの (不安定群) に, 極端に高い目標設定および極端に低い目標設定がより多くみられるであろう。
2. 木安定群よりも安定群の方がより現実的な目標設定を行なうであろう。
3. 不安定群よりも安定群の方がより安定した目標設定を行なうであろう。
4. 安定群よりも不安定群の方に変則的な目標設定が多くみられるであろう。
5. 適応的反応型は不安定群よりも安定群に多く, 不適応的反応型は安定群よりも不安定群に多くみられるであろう。
これらの作業仮説の検証のために関連する調査と実験を行なった。調査は本研究のために作製された自己評定インベントリーによって, 肢体不自由児の自己概念の安定性を測定することを目的とするもので, 中学~高校レベルの肢体不自由児119名が被検者とされた。自己概念の安定性の測度として, 肯定的自己と否定的自己とのへだたりが採用された。一方, 実験は肢体不自由児における自己概念の安定性と目標設定行動との関係をみることを目的とするもので, 前記調査の被検者中, 肯定的自己と否定的自己とのへだたりが大きいもの21名 (不安定群) とそれの小さいもの21名 (安定群) とが被験者とされた。両群の目標設定行動は, 置換作業とタッピングとを課題とし中性的場面と自我関与場面とによって構成される要求水準実験場面で観察された。
仮説1の「自己概念の不安定なもの (不安定群) には, 自己概念の安定したもの (安定群) に比べ極端に低い目標設定がより多くみられるであろう」という点は支持されなかったが, その他の仮説についてはいずれも支持されるような結果が得られた。このことは, 肢体不自由児の中でも自己概念の安定しているものの方が目標設定行動は現実的で安定していることを示していると考えられた.

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