1972 年 20 巻 4 号 p. 244-249
本研究は, 聴覚障害児の仮現運動視における意味性の効果を検討し, その結果を筆者が以前に正常児について得た結果と比較し, さらに意味性の効果を規定する条件について考察したものである。
FIG. 1に示された5つの図形 (「円」,「方向性のない三角形」,「方向性のある三角形」,「静止中の馬」,「運動中の馬」) の仮現運動視の成立をろう学校小学部1・2 年生, 同4・5年生, 中学部1・2年生 (各群とも10名) の3被験群について調べた。測度は最適運動時相の下限値, 範囲値, 上限値の3つであった。
仮現運動視の成立に関して, 下限値では, 年齢間の差, 図形間の差とも有意でなかったが, 範囲値と上限値とでは, 両者とも有意であった。
範囲値と上限値で得られた結果の大要は次のとおりである。
(1) どの図形においても, 正常児ほど顕著ではないが, 年少群ほど仮現運動視は成立しやすい。
(2) 動的な図形ほど仮現運動視は成立しやすい。すなわち「方向性のある三角形」は「方向性のない三角形」や「円」よりも, また「運動中の馬」は「静止中の馬」よりも, それぞれ仮現運動視は成立しやすい。しかし, 聴覚障害児におけるこの意味性の効果は, 正常児の意味性の効果と比較するときわめて小さい。
(3) 被験児を幼稚部教育を受けた群と受けなかった群に分けると, 後者においては図形問に有意な差は認められなかったが, 前者においては, 「運動中の馬」が「静止中の馬」よりも有意に仮現運動視が成立しやすかった。
聴覚障害児の仮現運動視において意味性の効果が顕著でないのは, 彼らの図形の意味の把握が未分化だからではないかと考察された。そして知覚に図形の意味性が有意な効果を及ぼすには, 知覚者の図形の意味の明確な把握ということが1つの条件ではないかということが示唆された。