教育心理学研究
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美的情操に関する発達的研究
星野 喜久三
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1969 年 6 巻 1 号 p. 14-20,62

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抄録

自然の美的場面を描写した短文にたいする意味の把握を通じて, 美的情操を発達的に跡附けることが本研究の目的である。その結果の要約と結論は次の通りである。
1. 感情表現章において学年間の差は有意である。性差は有意でない。男女とも中IIIから高Iへ, 女子において高IIIから大学へ増加量が顕著である。表現のヴアライテイーは漸進的に豊富になってくるようであるが, 高I から高IIへの発達が著しいようである。女子は男子より表現の多様性に富んでいるらしい。
2. 場面 (1)(牛が憩っている春の牧場),(7)(月の光に明るく照された夜の花園),(2)(急流をさかのぼる鯉, 青空に泳ぐ鯉のぼり),(5)(庭の片隅に咲いている小さな花) に表現量が多く, これらに各々含まれる“のどかな”,“美しい”,“勇しい”,“かわいらしい”の表現は他の表現より著しく多く出現する。これらの場面及び表現は低学年でもかなりの量をもち, その後の発達は急激なもの, 漸進的なもの, 恒常的なものに分れる。これにたいし, 場面 (4)(薄墨で書き流された竹の絵) の表現量は少く, とくに (10)(床の間におかれた相馬焼の陶器) の表現量は目立って少く, 両者の場面に含まれる“淡白な”,“素朴な”,“渋い”,“奥ゆかしい”,“おごそかな”,“高貴な”,“古風な”等の主に日本的美的感情の出現量は僅少であり, 発達的にかなりおくれて (高II, 高III) 出現する。
3. 場面 (9)(コツプの水にさされた一輪の菊),(5),(6)(朝日を浴びて目を醒ました店先の人形) において女子が男子より多いようであるが, それらに各々含まれる“静かな”,“かわいらしい”,“にぎやかな”の表現が女子に多いようである。これらの表現は低学年でもかなり多く出現している。これにたいし,(13)(急傾斜を滑行するスキー),(2) のような場面では男子が女子よりも多く,(13) に含まれる爽快なは男子に圧倒的に多い。
4.“恐しい”,“無気味な”等の否定的感情は学年が進むにつれて減少する。(3),(10),(12)(山奥の木立に囲まれた寺院) に多い。
Hurlock (6) は, 青年期後期へ入ると十分な知的発達によつて抽象的なものの価値を見出すことができるようになり, ここに美的情操の発達をみるといつているが, 本研究のような, 文章表現に含まれる美的価値の意味を理解することでは, 児童期では極めて困難であり, 青年期へ入つてから, とくに中期, 後期における著しい上昇を伴って, 発達していくことが認められる。

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