教育心理学研究
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幼児の転換学習に関する研究
鈴木 栄
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1961 年 9 巻 2 号 p. 84-91,127

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抄録
この実験では, 幼稚園児に2つの箱の中でオハジキの入つている箱を選択させる弁別学習が課せられた。刺激は大きさと色の2つの次元で異なる箱同士からなる2組の刺激対で, 常にランダムな順序で提示された。第1学習では, 逆転群は常に特定の色の箱が強化される色弁別で, 非逆転群は常に大または小なる箱が強化を受ける, 大きさ弁別であつた。この第1学習が一定の規準に達すると, 次の第2学習に移つた。第2学習では, 両群とも1組の刺激対のみ提示され, 常に第1学習の負刺激が強化された。第2学習が連続5正反応の規準に達すると, 続いて第3学習に移つた。第3学習では, 再び, もう1組の刺激対が加えられ, 第2学習の正刺激と同じ色の刺激に強化を与える色弁別学習であり, 連続5正反応の規準に達するまで続けられた。ただし, この学習の第1試行では, 第2学習で用いられなかつた刺激対が提示された。
なお, 第1学習の訓練量の影響をみるため, 第1学習の規準を4種とし, これによつて, 両群ともそれぞれ4つのグループに分けられている。また, 第1学習を行なわないで, 第2学習から実験に入つた統制群は, 第1学習の訓練量を0として逆転・非逆転の両群に属するものとして扱われた。
こうして, 以下の結果が得られた。
1.第1学習の訓練量が多くなるに従つて, 第2学習および第3学習は, 初めはしだいに困難になり, ある臨界点を過ぎると, 次には, しだいに容易になる傾向が見られた。
2.逆転群と非逆転群の第3学習についての比較では, 逆転的移行は非逆転的移行より容易であつた。
3.第3学習の第1試行で選択される刺激は第2学習の正刺激と「色」と「形」 (または大きさ) のいずれかの点で同一であるが, そのいずれの点で同一であるかを見ることによつて, 「色」と「形」のいずれを抽象する傾向が有力であつたかが確かめられる。その結果, 第1学習で色弁別を行なつた逆転群は, 第1学習の訓練量が多くなるほど「色」を抽象する傾向を増すが, 大きさ (または形) 弁別を行なつた非逆転群は「形」を抽象する傾向を増していることが示唆された。
以上の結果に対し, Osgoodの2段階学習説 (twostagelearning theory) に類似した学習過程の図式化が試みられた。すなわち, 弁別学習の初期では, 外的刺激と外的反応が直接結びつく低い水準での連合過程が支配的であり, この期間では訓練量の多いほど逆転が困難である。しかし, 学習が進むにつれて, より高い水準での連合過程が支配的となる。この連合過程では, 外的刺激と外的反応の間に媒介過程が介在し, 外的刺激の特定の様相を抽象する働きをすると同時に, 反対の様相間に般化を生ずる。したがつて, この過程が支配的となる弁別学習後期では, 訓練量の増加に従つて, 逆転が容易になる。
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© 日本教育心理学会
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