抄録
自己呈示が呈示者の能力の推定に及ぼす効果を検討した。先行研究のレビューから実験室実験とシナリオ実験の結果が異なり,この方法的問題と文化的説明が混交している可能性が示唆された。この問題を明らかにするために,日本人女子大学生を実験参加者として,実験室実験とシナリオ実験をおこなった。実験1では,実験室実験をおこなった。実験協力者は,課題の遂行前に,自分の能力に関して自己高揚的主張をおこなうか,自己卑下的主張をおこなうか,主張をしないかのいずれかの呈示をおこなった。実験協力者の遂行は高い遂行か低い遂行に操作された。自己高揚的呈示は自己卑下的呈示に比べ,実験協力者の能力を高く推定させていた。この結果は,欧米人を実験参加者としておこなわれた実験室実験での知見と整合しており,東洋人を実験参加者としておこなわれたシナリオ実験での知見と整合していなかった。実験2では,実験1の手続きを説明したシナリオを読ませ,呈示者の能力を推定させた。実験2では,呈示スタイルは能力推定に対して影響を与えなかった。これらの結果は,能力推定に対する自己呈示の効果に関して,実験室実験から得られる結果とシナリオ実験から得られる結果が異なることを示している。