論文ID: 2402
事例研究に対して「代表性のある事例なのですか」との批判が投げかけられ,それに対して「極限的な事例においてこそ本質が露呈するのです」と反論する―何度もくり返されてきた定番の論争である。本稿では,極限的な事例という概念に精密な分析をくわえ,以下の結論を導く。事例選択において考慮すべきは,理論的意義がある事例であるか否か,実践的意義がある事例であるか否かである。代表性のある事例であるか否か,極限的な事例であるか否かという区別に本質的意義はない。くわえて,極限的な事例であるか否かを厳密に評価するのは,現実には,きわめて困難である。事例選択手続きを完全にマニュアル化したりせず偶然の出会いを大切にすべきであるが,状況に着目することにより理論的意義がある事例を発見できる可能性を高められる。