教育・社会心理学研究
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脳性マヒ者の心理学的リハビリテイション
V. 不自由動作の体系的評価
成瀬 悟策
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1969 年 8 巻 2 号 p. 193-223

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抄録

脳性マヒ者に現われる最も特徴的な動作を定型, 身体緊張勾配, 単位動作, および基本動作という相互に次元の異る4つの視点から捉えるために, それぞれについての体系的な評価基準を定め, これを道具として用いたとき, 動作改善のための訓練において, それがどのように役立ちうるのかを, 実際のケースについて検討したところ, おおよそ, つぎのようなことが明らかにされた。
それら各評価の結果は, 個々の特徴を適切に示しうるけれども, さらに, それらを綜合的, 全体的に眺めることによって, いっそう, マヒ者の動作の特徴を浮きぼりにすることができる。とくに, 現状において, いかなる困難が認められ, それを困難にしている動作学的な因果関係 (たとえば過度緊張と困難との関係, 基本動作における困難と単位動作不全との関係など), 改善を要する訓練対象の発見などのためには, そうした綜合的評価が極めて重要なことが述べられた。
また, 動作の困難度, 過度緊張と弛緩の状況, 当該動作と他の動作や緊張との関連などを知ることによって, 訓練方法の選択, 訓練条件の決定, 訓練効果の予測, 訓練過程の測定・記述, 訓練効果の評価, 訓練効果定着度の判断などが, ある程度まで適切にできることがわかる。さらに, 対象ごとの訓練方法の優劣, 効果効率などについて比較したり, 訓練者の側のマヒ者におよぼす個人的要因, 訓練目標の選択や転換についての妥当性などの検討というような, 動作訓練上の方法と効果について科学的な研究のためには, このtoolが重要な手掛りを与えることがわかってきた。
また, ある動作の促進ないし進歩が, 他の動作を抑制ないし停滞させる現象とか, ある複雑な動作の進歩が必要な関連動作の習熟度とどのように関連するかの問題, どんな動作がいかなる学習曲線を描くか, どの身体部位がどの動作や身体部位といかなる関連性をもつか, など, いわゆる動作学的な法則性の認知, 定立のために, 有力な資料を提供しうることも推測された。
もちろん, それらtoolは, これで完成されたわけでもなく, 必要, 十分な条件を満たすものとはいえず, その観点なり, 記述法, 評価の基準などについては, マヒ者の動作や不自由現象をいつそう適切に捉え, 表現できるようなものに改訂していくことが必要であるが, その端緒を拓くためのものとしては, いちおうの使用に耐えうるものといえるであろう。これをもとにして, さらに今後, より適切なtoolに仕上げられることが望まれる。

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© 日本グループ・ダイナミックス学会
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