実験社会心理学研究
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緊急避難状況における避難誘導方法に関するアクション・リサーチ (II)
誘導者と避難者の人数比が指差誘導法と吸着誘導法に及ぼす効果
杉万 俊夫三隅 二不二
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1984 年 23 巻 2 号 p. 107-115

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抄録

本研究は, 緊急避難状況における2つの避難誘導法-指差誘導法と吸着誘導法-を現場実験により比較検討したものである。指差誘導法とは, 誘導者が大声とともに出口の方向を指し示して誘導する方法であり, 従来, 避難訓練の場で広く用いられてきた典型的誘導法である。一方, 吸着誘導法とは, 誘導者が自分の近辺にいる少数の避難者 (本実験では1名) に対して, 自分についてくるよう働きかけ, その避難者を実際にひきつれて避難する方法であり, 本研究において新しく開発された避難誘導法である。
本研究では, 特に, 誘導者と避難者の人数比が, 両誘導法にいかなる効果を及ぼすかを中心に検討した。具体的には, 避難者を常に16名と固定し, 誘導者4名の場合 (誘導者1名当りの避難者数4名) と誘導者2名の場合 (誘導者1名当りの避難者数8名) を比較した。また, 誘導者は2名であるが, そのうちの1名は指差誘導法を, もう1名は吸着誘導法を用いるという併用型についても検討した。
実験に際しては, (1) 避難者のすぐ近くにあり, 特別な誘導がなされない限りは避難者が使用するであろうと予想される一つの出口と, 大部分の避難者からは当初見ることができない遠方にあるもう一つの出口, という合計2つの出口を設け, 誘導者が後者の遠方の出口へ向って誘導するという, 避難者にとって複雑な避難状況を構成した。また, (2) 避難開始直前の20秒間, 突然照明を消し, 非常サイレンを鳴らし続けるという操作を導入し, 避難者にある程度の不安と動揺を与えた。
実験の結果, 誘導者と避難者の人数比によって, 指差誘導法と吸着誘導法の優劣が逆転することが見出された。すなわち, 誘導者4名の場合には, 杉万・三隅・佐古 (1983) の実験結果と同様, 吸着誘導法の方がはるかに迅速な避難を達成した。ところが, 誘導者2名の場合, 指差誘導法は, 先の誘導者4名による指差誘導法よりも短時間で避難を完了したが, 吸着誘導法においては, 誘導されなかった方の出口から避難してしまった避難者が16名中11名も出現した。誘導されなかった出口からの避難者が出現したのは, この誘導者2名による吸着誘導法の場合だけであった。以上の結果から, 誘導者1名当りの避難者数が少ない場合には, 指差誘導法よりも吸着誘導法の方が極めて有効であるが, 誘導者1名当りの避難者数が多い場合には, 吸着誘導法では不十分な誘導結果となることが明らかになった。
また, 誘導者2名による併用型においては, 誘導者2名による指差誘導法よりもわずかながら短時間で避難を完了した。この事実は, 現実の避難誘導計画を作成する上で, 指差誘導法と吸着誘導法の併用を積極的に考えていくことに対する一つの根拠を提供するものであろう。

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