抄録
52人の男子高校生が被験者として, 混雑状況のみ, あるいは情動的スライドのみ, あるいはこの両者を経験した。混雑状況と情動的スライドの両者を経験した被験者は, さらに混雑状況と情動的スライドを同時に経験する条件と, 非混雑状況で情動的スライドを見た後に混雑状況を経験する条件との二つに分けられ, この両者によって引き起こされた生理的喚起の入手可能な原因としての, この両者の相対的顕著さが操作された。
生理的喚起の加法性の原理から, (I) 混雑状況と情動的スライドの両者を経験する場合には, これらのうちいずれか一方のみを経験する場合よりも, 引き起こされた生理的喚起の水準はより高いであろう, と予測された。また, 情動の二要因説から, (II-a) 混雑状況と情動的スライドの両者を経験する場合で, 情動的スライドよりも混雑状況のほうが顕著な時には, 混雑状況のみを経験する場合に比較して, 混雑感知覚の程度はより高く, 情動的スライドのみを経験する場合に比較して, 刺激の情動性評定の程度はより低く, (II-b) 混雑状況よりも情動的スライドのほうが顕著な時には, 混雑状況のみを経験する場合に比較して, 混雑感知覚の程度はより低く, 情動的スライドのみを経験する場合に比較して, 刺激の情動性評定の程度はより高いであろう, と予測された。
結果は仮説 (I) を支持せず, 生理的喚起の水準にはどの条件間でも有意な差はみとめられなかった。そのため, 生理的喚起の性質と測度の妥当性とが考察された。また, 仮説の (II-a) と (II-b) は支持されなかったが, 混雑状況と情動的スライドの両者を経験する場合には, これらのうちいずれか一方のみを経験する場合に比較して, 混雑感知覚の程度も刺激の情動性評定の程度も有意に低いという結果が得られた。原因探索や原因同定の過程に影響を与える要因としての割引原理を考慮することによって, 情動の二要因説の枠組内でこの結果を解釈する試みがなされた。