抄録
土肥と今井 (1986) は特性空間論を提唱し, ゲーム場面における被験者の社会的動機の測定法および選択行動の新しい研究法を提案した。本研究の目的は, 社会的動機θおよびθの分布を求める実験を実際に行なって, 特性空間論および社会的動機の測定法の妥当性を検討することであった。そのために, 我々は2つの新しい実験方法を提案した。本研究では, その中でより簡単に実験ができる第1の方法を用いて実験が行なわれた。その結果, 被験者の選択結果は特性空間論の予測を支持すること, 従って, ゲーム場面における被験者の選択行動の説明に社会的動機の基本仮定を適用することに何の問題もないことが, まず, 確められた。そして, 社会的動機の測定法を用いて。被験者の選択結果からθおよびθの分布を求めることができること, このθは実験中安定しており, 被験者の安定した属性を表わしているとみなし得ることが明らかにされた。さらに, この測定法は, 測定結果が用いる利得行列に依存しない等, 原理的に優れた性質を持っていること, 特性空間論は, 従来の研究方法では得ることのできない明確な説明と解釈を, 実験結果に与え得ることが明らかにされた。このようにして, 本研究により, 特性空間論に基づく社会的動機の測定および選択決定の動機的, 認知的過程の研究への新しい道が開かれたと我々は考える。