抄録
本研究は, 従来, 認知的不協和がもつ一般的活性化機能を実証したとする研究が, 実際には, 妨害子として機能する観察者のインパクトの大小を検討しているだけではないかという疑問点の解明を目的とした。そのため, 2 (不協和-協和) ×2 (観察者有り-観察者無し) の実験デザインを用い, 注意のコンフリクト仮説および不協和がもつ動因としての活性化機能を主張する研究, それぞれの立場からの予測を比較検討した。不協和操作は, 高self-esteemの被験者に, 自分の長所または短所を記述させることによって行なった。
不協和喚起の妥当性は, 記述後の感情測定項目で確認された。不協和操作と無関連を装って実施された符号置き換え検査の正答数の測度では, 不協和が単純課題で促進的, 複雑課題で抑制的に作用しており, 認知的不協和がもつ一般的活性化機能を主張する立場からの予測を支持する結果が得られた。しかし, 誤答数の測度では, 不協和要因よりも観察者要因の主効果が強く現われ, 注意のコンフリクト仮説からの予測を否定できるものではなかった。結論としては, 両者の予測を対立的に考えるよりも, 観察者要因も不協和要因も同時に機能していると考えた方が無理なく説明できることが考察された。