抄録
乳児院の集団的・組織的特徴と乳児の発達の関係について検討するために, 対照的な2つの乳児院 (A乳児院とB乳児院) において事例研究を行った。A乳児院は高度な医療機能を有し, 都会の高層ビルの中にある大規模施設であり, B乳児院は温かい家庭的処遇を指向した山間部の小規模施設である。2つの乳児院における集合的行動, ならびに, 集合的行動の背後にあるコミュニケーションの特徴を検討した。すなわち, (1) 「乳児-保育者」集合体, ならびに, 職場集団における観察可能な集合的行動の相違, (2) コミュニケーション過程において形成される意味的差異の相違を検討した。その結果, A乳児院においては <効率-非効率> という差異が主導的であり, B乳児院においては <私物化-非私物化> という差異が主導的であることが見出された。また, それらの主導的差異によって構成される意味的世界は, 互いにとっての外部をなしている世界-A乳児院 (またはB乳児院) にとっては, B乳児院 (またはA乳児院) に構成されているような意味的世界-によってゆらぎを与えられていることも示唆された。筆者の先行研究において, A乳児院で観察された (しかし, B乳児院では観察されなかった) 乳児の行動, 応答の指さし課題における通過率の高低, 集団見立て遊びの成立・不成立等を, 上記の集団的・組織的特徴の一側面として考察した。