日本食品化学学会誌
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論文
収獲前の抑制工程がマガキの味に及ぼす影響
外川 柚理齊藤(北岡) 千佳平田 靖良永(加藤) 裕子
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2022 年 29 巻 2 号 p. 85-90

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抄録

国内のマガキ Crassostrea gigas の養殖では、沖合の筏にマガキ垂下連を本垂下する前に、潮間帯に設置した棚に垂下することでマガキに嫌気状態を断続的に与えている「抑制」という工程を数か月間行う。我々は収獲直前のマガキを再び抑制棚に戻して一定期間の断続的な嫌気負荷を与えることにより、味を中心とするマガキへの影響を、夏期は三倍体マガキ、冬期は通常の二倍体マガキを用いて調べた。味に関する成分分析には HPLC を用いて遊離アミノ酸および核酸関連化合物を定量するとともに、分光光度法で、マガキの栄養状態の指標となるグリコーゲン量を測定した。このほか、パネリストによる官能評価を実施した。実験の結果、夏期は対照群に比べ抑制群で、グリコーゲン量は変わらず、主に甘味に関する複数の遊離アミノ酸が有意に高く、官能評価で「うま味」が有意に高値であった。一方、冬期に行った実験では、対照群に比べ抑制群で多くの遊離アミノ酸が減少すると同時にグリコーゲンと軟体部重量も減少していた。以上のことから、抑制群と対照群の飼育環境は夏期と冬期で大きく異なっていた可能性が示唆されたが、本研究により、夏期収獲前の抑制棚飼育はマガキの味を向上させることが示唆された。

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© 2022 日本食品化学学会
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