森林立地
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ハイマツの繁殖様式に関する主軸シュート伸長量同調性からの解析
荒木 眞之
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1998 年 40 巻 1 号 p. 9-16

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抄録

1991〜'92年に本州中部の9山岳のハイマツ群落に面積約10m^2の区を70個設定し,区内のハイマツ10主幹における主軸の年伸長量を過去10年に遡って測定した。伸長量の年次変化パターンの主幹間同調性を相関係数で評価し,区の全体的な同調性程度を指標する有意率(10主軸の全組合せ数に対する有意な係数の数の率)を計算した。有意率に対する区数の相対頻度分布から,有意率25〜35%にモードが出現し頻度約16%を示すこと,分布はモード階級から頻度を漸減させつつ80%以上の有意率階級まで連続することが判った。一方,各種の実生苗(5林分)・クローン苗(6林分)・半兄弟の苗(1林分)からなる林分において樹高生長量の年次変化パターンの有意性を求めた。その結果,ハイマツ群落の一部と同程度の高い有意率を示す林分は,クローン林分(60〜98%)と半兄弟林分(有意率73〜96%)であった。実生林分の有意率は,39・24・7〜13・14・4(%)であった。したがって,一般の実生林分の有意率は,ハイマツのモード階級が示す25〜35%程度を示す例もあるが,より低いと考えられた。ハイマツにおいて有意率が25〜35%から80%まで連続的に低下する理由を明らかにするため,区の立地要因・成長指標要因と有意率の関係を解析した。その結果,土壌が厚く成育旺盛な群落では栄養繁殖,すなわち葡匐幹の地中への埋没・発根・分岐部の腐朽・クローン個体群の発生,が起こりやすいと考えられた。従来から,ハイマツの繁殖様式は栄養繁殖と種子繁殖とされつつも,両者の関係は不明であった。しかし,有意率が連続的に変化することから,両繁殖様式の関係を以下の様に解釈することが出来た。すなわち,不連続分布群落の成立は種子繁殖によること,群落の拡大・維持は栄養繁殖と種子繁殖の両者によること,立地により栄養繁殖が卓越する場合・逆の場合があることが数値的に推論された。

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© 1998 森林立地学会
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