気候変動による海面上昇や大型台風による沿岸災害リスクの高まりが懸念される現在,沿岸部マングローブ林の持続的な生態系サービスの発揮のためには,高潮等による根返りに対するマングローブの限界を理解したうえで,今後予測されるリスクに対する沿岸保全策を構築することが不可欠である。本研究では,潮間帯に存立するマングローブの,波や風で引き起こされる根返りに対する閾値を明らかにすることを目的として,マングローブの根返り耐性を評価した。研究対象は,沖縄県西表島とベトナム社会主義共和国スワントゥイ国立公園のマングローブ(Rhizophora stylosa, Sonneratia caseolaris, S. apetala他)である。各試験木に対して引き倒し試験を実施し,根返り時に発生した最大回転モーメント(Mmax)を測定して,樹種ごとの根返り耐性を評価した。Mmaxは樹種間で異なったが,いずれも樹木サイズに比例して増加した。Sonneratia caseolarisとS. apetalaはRhizophora stylosaや他のマングローブと比べ,総じて根返り耐性が低い傾向を示した。陸域の海岸林を対象とした既往の研究結果と比較したところ,R. stylosaは陸域の海岸林を構成するクロマツや広葉樹よりも根返り耐性が高いことが分かった。本結果は海岸林を構成する樹種の根返り耐性の特性を理解した上で沿岸域の防災・減災施策を検討する際に活用できる。
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