森林立地
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論文
  • 上田 正文
    原稿種別: 論文
    2024 年 66 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2024/06/25
    公開日: 2024/07/23
    ジャーナル 認証あり

    丹沢山地におけるブナ林の衰退原因の一つとして,水ストレスが関与するとされる。しかし,丹沢山地に生育するブナの水分状態を調べた例は極めて少ない。そこで,丹沢山地の主峰の一つであり,ブナ林の衰退が生じている檜洞丸(標高1,601m)において,ブナの葉の水ポテンシャルを測定するとともに,枝木部の道管構造を調べた。その結果,檜洞丸においてブナ林の衰退が認められている山頂付近の稜線沿いと南斜面に生育するブナは,ブナ林の衰退が認められていない山頂付近の北斜面と標高1,200m付近に生育するブナと比較し,葉の水ポテンシャルが低く,枝木部に小径内径の道管が占める割合が高くなるとともに道管密度が高くなる傾向が認められた。このことから,檜洞丸においてブナ林の衰退が生じている山頂付近の稜線沿いと南斜面に生育するブナは,水ストレスを生じ易い環境下に生育することを調査結果をもとに示した。そして,水ストレスとブナハバチの食害がブナ林の衰退に及ぼす複合的な影響について,生育地と衰退度が異なるブナの水分状態と木部道管構造を比較し考察した。

  • 溝口 拓朗, 伊藤 哲, 平田 令子, 山岸 極, 光田 靖
    原稿種別: 論文
    2024 年 66 巻 1 号 p. 9-16
    発行日: 2024/06/25
    公開日: 2024/07/23
    ジャーナル 認証あり

    ヒノキ壮齢過密林分における個体の成長促進効果を発揮できる間伐方法を把握するとともに,列状間伐の成長促進効果の有無を左右する条件について考察する目的で,55年生ヒノキ人工林において,定性間伐区,列状間伐区(1伐3残)および対照区(無間伐)を設定して成長量を調査した。胸高直径の相対成長率を間伐前と間伐後の2期間(期間Ⅰ:間伐直後の2年間,期間Ⅱ:間伐2年後から7年後までの5年間)で比較した結果,定性間伐区において期間Ⅱの胸高直径の相対成長率は間伐前よりも増加しており,過密な壮齢ヒノキ林においても定性間伐が有効であることが確認できた。一方,列状間伐区における胸高直径の相対成長率は間伐前と比較して間伐直後一時的な低下が観察された。胸高直径の成長量を目的変数とし,期首サイズ,樹冠長および間伐方法を説明変数とする一般化線形モデル(GLM)を用いた解析においても,本林分の条件では列状間伐による成長促進効果は弱いことが示された。さらに,列状間伐区において,個体の位置(伐採列への隣接の有無)および樹高を基準とした個体の優/劣で4類型に分けて相対成長率を多重比較した結果,期間Ⅰで確認された成長抑制の要因の1つとして,環境の急変に伴う水ストレス等の“thinning shock”の可能性が示唆された。また,期間Ⅱはthinning shockの影響は小さくなっている可能性があったが,中央列木の特に劣勢木の成長が抑制されており,これらが列状間伐後の個体の成長量の林分平均値を低下させたと推察された。

  • 引き倒し試験による力学的評価と樹種間比較
    小野 賢二, 野口 宏典, グェン・トゥイ ミー・リン, ドァン・タィン トゥン, チュアン・クァン チー, 高畑 啓一, 森 信人, 馬場 ...
    原稿種別: 論文
    2024 年 66 巻 1 号 p. 17-26
    発行日: 2024/06/25
    公開日: 2024/07/23
    ジャーナル 認証あり

    気候変動による海面上昇や大型台風による沿岸災害リスクの高まりが懸念される現在,沿岸部マングローブ林の持続的な生態系サービスの発揮のためには,高潮等による根返りに対するマングローブの限界を理解したうえで,今後予測されるリスクに対する沿岸保全策を構築することが不可欠である。本研究では,潮間帯に存立するマングローブの,波や風で引き起こされる根返りに対する閾値を明らかにすることを目的として,マングローブの根返り耐性を評価した。研究対象は,沖縄県西表島とベトナム社会主義共和国スワントゥイ国立公園のマングローブ(Rhizophora stylosa, Sonneratia caseolaris, S. apetala他)である。各試験木に対して引き倒し試験を実施し,根返り時に発生した最大回転モーメント(Mmax)を測定して,樹種ごとの根返り耐性を評価した。Mmaxは樹種間で異なったが,いずれも樹木サイズに比例して増加した。Sonneratia caseolarisとS. apetalaはRhizophora stylosaや他のマングローブと比べ,総じて根返り耐性が低い傾向を示した。陸域の海岸林を対象とした既往の研究結果と比較したところ,R. stylosaは陸域の海岸林を構成するクロマツや広葉樹よりも根返り耐性が高いことが分かった。本結果は海岸林を構成する樹種の根返り耐性の特性を理解した上で沿岸域の防災・減災施策を検討する際に活用できる。

資料
  • 谷本 丈夫
    原稿種別: 資料
    2024 年 66 巻 1 号 p. 27-34
    発行日: 2024/06/25
    公開日: 2024/07/23
    ジャーナル 認証あり

    本報告は,奥日光戦場ヶ原湿原に関連する明治期から昭和20(1945)年代までの古文書,絵葉書,御料林及び森林管理署の事業記録資料などから戦場ヶ原におけるカラマツ林の生育地と景観変化,さらにカラマツ植林のため湿原内に排水溝が掘削された場所と範囲について検討した。その結果,明治期から大正期までは,カラマツ林が大きな景観要素として評価できるが,衰退傾向にあったこと,林床植生としてのズミなどの低木層は未発達であったことが明らかとなった。カラマツの生育は男体山などからの泥流堆積地及び湯川の自然堤防上に生育するタイプと戦場ヶ原湿原の山地周辺から湿原内において,一定の範囲に矮性化して生育するタイプの2タイプが確認された。乾燥化をもたらしたとされる排水溝掘削痕跡は小田代原1箇所,湯川2箇所,三本松2箇所,計5箇所で確認でき,衰退した泥流堆積地や自然堤防上の樹林を復活,再生させる目的で掘削された試行実験的な規模であったと考えられる。戦場ヶ原湿原内の矮性化したカラマツの多くは,植栽後の生き残りと排水後の乾燥化によって侵入したとされていたが,その生育地は限定的である。また,湿原内部に生育する湿原植物の生育はむしろ良好であるとの報告もあり,戦場ヶ原湿原の乾燥化には多様な要因が絡まりあっていることが示唆された。本報告は,奥日光戦場ヶ原湿原に関連する明治期から昭和20(1945)年代までの古文書,絵葉書,御料林及び森林管理署の事業記録資料などから戦場ヶ原におけるカラマツ林の生育地と景観変化,さらにカラマツ植林のため湿原内に排水溝が掘削された場所と範囲について検討した。その結果,明治期から大正期までは,カラマツ林が大きな景観要素として評価できるが,衰退傾向にあったこと,林床植生としてのズミなどの低木層は未発達であったことが明らかとなった。カラマツの生育は男体山などからの泥流堆積地及び湯川の自然堤防上に生育するタイプと戦場ヶ原湿原の山地周辺から湿原内において,一定の範囲に矮性化して生育するタイプの2タイプが確認された。乾燥化をもたらしたとされる排水溝掘削痕跡は小田代原1箇所,湯川2箇所,三本松2箇所,計5箇所で確認でき,衰退した泥流堆積地や自然堤防上の樹林を復活,再生させる目的で掘削された試行実験的な規模であったと考えられる。戦場ヶ原湿原内の矮性化したカラマツの多くは,植栽後の生き残りと排水後の乾燥化によって侵入したとされていたが,その生育地は限定的である。また,湿原内部に生育する湿原植物の生育はむしろ良好であるとの報告もあり,戦場ヶ原湿原の乾燥化には多様な要因が絡まりあっていることが示唆された。

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