スギ人工林主伐後における土砂移動の空間不均一性とその要因を定量的に把握する目的で,100年生スギ人工林において,伐採区と対照区を設定して伐採実験を行い,その後約6か月間の土砂移動レートの変動係数(CV)を比較した。伐採区の土砂移動レートのCVは対照区よりも大きく,土砂移動レートの極端に高い地点が観察された。これは,伐採木の搬出の地表撹乱によって表面流の集中する箇所(いわゆる「水みち」)が形成されたためと推察された。次に,伐採区および対照区の土砂移動レートを,その全体の平均値より大きな値をとった場合(偏差が正)と平均値より小さな値をとった場合(偏差が負)の2つのカテゴリに分類し,カテゴリ間で残材または枝条等リターによる林床被覆率,リター移動レートおよび斜面傾斜を比較した。その結果,残材による林床被覆は土砂移動を抑制する効果があることが示唆された。さらに,土砂移動の不均一性を形成する要因を明らかにするために,目的変数を土砂移動レートの偏差カテゴリ(正・負)として,説明変数を斜面傾斜,残材または枝条等リターの林床被覆率およびリター移動レートとして決定木解析を行ったところ,伐採区では残材による林床被覆率が45.5%を上回ると,偏差カテゴリが負となる結果が得られた。以上の結果から,伐採地における土砂移動の空間不均一性には,伐出による水みちの形成および散在する林地残材による土砂移動の抑制が影響していることが示唆された。