日本林学会誌
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スズカケノキ褐点病菌Cercospora platanifolia ELLIS et Ev. の分生胞子形の変異
伊藤 一雄寺下 隆喜代保坂 義行
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1959 年 41 巻 6 号 p. 229-237

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抄録

Cercospora platanifolia ELLIS et Ev. に侵かされたスズカケノキ類の病葉上に,これとは形態がいちじるしく異なる分生胞子がしばしば認められた。すなわち前者の典型的な分生胞子は淡色~無色,細長く鞭状なのに対して,後者は濃褐色,短太で俵型を呈しStigmina属菌類の分生胞子の特徴を示している。,それで著者らは始め,褐点病菌C. platanifolia に侵かされた病葉にStigmina platani (FUCK.) SACC. が混在したものと考えた。しかし,各々の分生胞子から単個培養による菌叢の比較および接種試験によつて,この両胞子型はともにCercospora platanifoliaのものであることが明らかにされた。
本菌によるスズカケノキ類の病斑には2つの型が区別される。すなわち小形,褐色の斑点(壊死斑)と葉の裏面に煤状に形成される不定型病斑(煤状斑)である。そして通常壊死斑上には主としてCercospora型胞子が,また煤状斑上には主としてStigmina型胞子が認められる。肉眼的に大きな差のあるこれらの病斑は,病原菌のちがいによるものではなく,葉の幼老,硬軟の差によるもので,葉が幼若で軟弱な場合には壊死斑が,また葉が老成して硬化した後には煤状斑となるのが普通である。
東京における調査によれば, 9月上旬までは壊死斑および煤状斑とも,形成されている分生胞子の大部分がCevcospora型で,これにごく少数のStigmina型胞子が含まれているが,秋が深まるにつれてStigmina型胞子の比率がしだいに大きくなり, 11月中,下旬になると胞子の大部分はStigmina型で, Cercospora型胞子は少数認められるにすぎない。そしてこの変化は煤状斑において壊死斑よりも速やかに現われる。なお,培養基上においても,また病斑上においても,典型的なCevcospora型胞子とStigmina型胞子の間に,いろいろな段階の中間型胞子が認められ,これらの変化は連続的である.
本菌の子嚢時代(完全時代)は東京ではまれにしか認められないがMycosphaerella属の特徴を持つている。これは外国でスズカケノキ類に記載されたM. platanifolia (COOKE Cercospora platanifaliaの完全時代)およびM. stigmina-platani WOLF (Stigmina plataniの完全時代)のいずれにも一致せず,両者の中間的な形状を呈する。子嚢胞子からの単緬培養はやはり上述のCercospora型, Stigmina型および中間型の胞子を形成し,なおこれによる接種試験結果も, Cercospora型およびStigmina型分生胞子による場合と等しく差は認められない。
病葉上の越冬分生胞子の大部分はStigmina型で,これらは冬期間発芽能力を失うことなく安全に越冬して翌春発病させる。ただし,過湿な条件下では速やかに発芽力を失う。従つて本菌のStigmina型分生胞子は越冬および第一次俵染に重要な役割を果たすものと考zられる。
Cercospora属菌の分生胞子は主として湿度の影響によつてその形状,大きさにある程度の変化をおこすことはしばしば報告されている。しかし本報告で述べるような著しい例は未だ知られていないようである。またこの変化は単に湿度だけの影響ではなく,寄主の葉の幼老,硬軟,季節の推移など,もつと複雑な因子に左右されるものらしい。
海外においては,Cercospora platanifoliaStigmana plataniを明らかに別種として取りあつかい,すこしの疑念もいだいていない。しかし一見相異なる菌としかみえない著しくちがう形状を呈する分生胞子が,実は同一種の菌のものであることが確認された現在,これら両種の異同については改めて慎重な検討が必要だと考えられる。

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