現代日本社会の特徴の一つを、「集団主義-個人主義」をめぐる3つのトレンドによって考察する。ただし、本稿で用いる「集団主義」、「個人主義」の概念は、従来、社会心理学で用いられてきた同名の概念とは、基本的に性格を異にする。すなわち、本稿では、規範を身体の溶け合いから擬制される「第三の身体」の声であると捉える大澤(1990)の規範理論に依拠し、第三の身体が具象的身体とオーバーラップする段階を集団主義、そのオーバーラップを減じ、第三の身体が不可視の抽象的身体となった段階を個人主義と定義する。
欧米では、「集団主義(前近代)→個人主義(近代)→身体の溶け合いへの回帰(ポスト近代)」という歴史的経路を辿ったのに対し、現代日本社会には、①集団主義からマイルドな個人主義へと向かうトレンド、②マイルドな個人主義から本格的な個人主義へと向かうトレンド、③マイルドな個人主義から溶け合う身体へと回帰するトレンドの3つが共存していることを、具体的な社会現象の例をあげつつ指摘した。20年程度の近未来を見通すとき、③のトレンドが急速に主流になるであろうことを予想するとともに、このトレンドを②のトレンドと見誤ってはならないこと(平易に言えば、集団主義の減退を個人主義化と見誤ってはならないこと)を強調した。