ジャーナル「集団力学」
Online ISSN : 2185-4718
ISSN-L : 2185-4718
日本語論文(英語抄録付)
保育と療育における身体の「溶け合い」
林 沙織乾 英理子杉万 俊夫
著者情報
ジャーナル フリー

2011 年 28 巻 p. 66-85

詳細
抄録

 「自然の中での保育」と「軽度発達障害児の療育」に取り組むユニークな2つの活動事例を取り上げ、それらを専門家(保育士・療育士)と子どもの身体的「溶け合い」という概念を軸に考察した。それは、同じく幼児を相手にしていても質的にかなり異なる2つの活動についての具体的な記述(観察言語)に、共通の理論言語を重ねわせることによって、2つのローカリティにインターローカルな視点を提供する試みでもある。
 まず、「自然の中の保育」の活動事例として、鳥取県智頭町で行われている「森のようちえん」を、筆者が参加観察で経験したエピソードに即して紹介した。「森のようちえん」では、園舎をもつことなく、常に森の自然の中で保育が行われている。その保育の現場では、保育士と子どもたちが、自然の場を共有し、「横並びの目線」で自然に相対していた。また、保育士は、子どもを肯定するか否定するかという姿勢ではなく、まずもって、あるがままの子どもを受容するという姿勢を貫いていた。そのような保育士と子どもたちの関係は、親の変化、すなわち、子どもの多様性を認め、子どもが伸びるのを「待つ」姿勢への変化をももたらしていた。
 次に、「軽度発達障害児の療育」の活動事例として、京都府宇治市にあるNPO法人アジール舎の児童デイサービス事業所「児童デイころぽっくる」の活動を、参加観察と母親からのヒヤリングをもとに紹介した。「ころぽっくる」では、療育士は、「障害児」という先入見に捕らわれない姿勢、子どもを無条件に受容する姿勢で療育にあたっていた。また、子どもも、そのような療育士の胸に飛び込み、保育士・療育士と一体化しつつ療育を受けていた。その療育は、子どもたちに保育園や学校では得られない自信と能動性を育んでいた。また、そのような療育士と子どもの関係は、親の変化、すなわち、わが子の障害を受容する方向への変化をももたらしていた。
 これら2つの事例は、保育士・療育士と子どもの身体が互いに「溶け合う」関係を形成している点で共通している。その身体の「溶け合い」は、新しい「意味」(子ども・子育てについての意味)を生成し、親の変化をもたらしていると考察した。

著者関連情報
© 2011 財団法人 集団力学研究所
前の記事
feedback
Top