抄録
抑うつ状態の既往がある70歳代の女性。進行舌癌の化学療法と放射線療法施行中にうつ病が発症したため,sertralineおよびclomipramineを使用するも希死念慮や拒絶が出現し,手術を拒否していた。ECTを早期に導入することで精神症状は改善し,手術を同意し施行することができた。したがって,手術拒否はうつ病による意志決定障害と考えられた。本症例のように,抑うつ症状に伴う意志決定障害によるがん治療の拒否,遷延がある場合,特に薬物抵抗性の場合はECTを施行することで早期に正常な意志決定ができる可能性があると考えられた。また,この治療過程で精神科主治医に精神科治療が生命予後に直結する焦りや期間設定のある治療に対するとまどいが出現した。これらは広義の意味での「逆転移」ととらえることができ,進行がん患者の精神療法においてこれらの感情を適切に扱うことが重要であると考えられた。