2012 年 24 巻 2 号 p. 127-131
ECTは,効果を有する精神科唯一の身体治療であり,切り札的な存在であるが,科学的な根拠に基づいた適用や運用が必要である。ECTのバイオマーカーについては今まで数多く検討されているが,臨床的基準に勝るマーカーは確立されていない。NIRS(near infrared spectroscopy:近赤外線分光法)は非侵襲的に脳血流を測定する手法であり,本邦でも先進医療として精神疾患の補助診断に利用できる手法として注目されている。
今回われわれは,ECTのバイオマーカー開発に関して何らかの形でNIRSが応用できないか検討する目的で,ECT施行中のNIRSを用いた両側前頭葉血流の変化について,統合失調症と気分障害での比較検討を行った。その結果,両側ECTにより,両側前頭葉の脳血流が上昇する変化を示し,統合失調症においては左優位な左右非対称性の変化を認めたが,気分障害では認めなかった。この左右差は疾患特異的な現象であり,左右差の程度が臨床症状とは相関せず,統合失調症の罹病期間とのみ逆相関を示したことから,発病早期の統合失調症の指標となる可能性が考えられた。このことは,NIRSを用いたECTによる血流反応性の評価が,診断や状態像に応用できる可能性も秘めており今後の検討が必要である。