2002年に改正道路交通法が施行され,「認知症」が運転免許の更新制限となることが法的に明記された。さらに高齢社会を反映し,2009年からは75歳以上の免許更新者には講習予備検査が導入されることになり,認知症に対する運転対策が進んだ。そして2014年6月から,認知症を含めた政令で定める一定の病気をもつドライバーに対する医師の任意届け出制度が導入されている。しかしながら,医師や医療機関の専門職に求められる対応は,極論をいえば,「認知症か否か」の判定を行うことに重点が置かれるようになり,本来医療の目的である患者およびその家族への生活指導という視点が抜けていると思われる。現在,認知症の運転対策には医学研究が必要不可欠でありながら,倫理的ジレンマが発生している。そこで,これらの諸問題と課題について,医療倫理的な側面から概観し,今後の認知症の人の運転研究の課題について述べた。