総合病院精神医学
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29 巻, 2 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
特集:精神疾患と運転
総説
  • 三野 進
    原稿種別: 総説
    2017 年 29 巻 2 号 p. 109-116
    発行日: 2017/04/15
    公開日: 2023/09/13
    ジャーナル フリー

    道路交通法は統合失調症,そううつ病を運転免許の相対的欠格としている。加えて,病気に関わる質問の虚偽回答への罰則等を定めた法改正が2014年6月より施行されている。現実には,これらの疾患にある人の大部分は,運転免許を適正に取得し,自動車を運転している。しかし,事故時や免許更新時に精神疾患にあることが判明すると,主治医の診断書を要求されることになる。この診断書には,現時点での運転適性,将来予後を記載することが求められる。
    問題をさらに深刻にしているのが,「自動車運転死傷行為等処罰法」の存在である。この法には,てんかん・精神疾患など政令で定める病気の影響で「正常な運転に支障が生じるおそれがある」と認識して運転し,人を死傷させた場合に重罰を課す規定が含まれる。これらの法改正は当該患者に重大な脅威を与えているが,精神科医にとっても,説明義務,診断書記載など,法への知識と判断が必要となる。

総説
  • ─医学的研究と倫理的課題─
    上村 直人
    原稿種別: 総説
    2017 年 29 巻 2 号 p. 117-124
    発行日: 2017/04/15
    公開日: 2023/09/13
    ジャーナル フリー

    2002年に改正道路交通法が施行され,「認知症」が運転免許の更新制限となることが法的に明記された。さらに高齢社会を反映し,2009年からは75歳以上の免許更新者には講習予備検査が導入されることになり,認知症に対する運転対策が進んだ。そして2014年6月から,認知症を含めた政令で定める一定の病気をもつドライバーに対する医師の任意届け出制度が導入されている。しかしながら,医師や医療機関の専門職に求められる対応は,極論をいえば,「認知症か否か」の判定を行うことに重点が置かれるようになり,本来医療の目的である患者およびその家族への生活指導という視点が抜けていると思われる。現在,認知症の運転対策には医学研究が必要不可欠でありながら,倫理的ジレンマが発生している。そこで,これらの諸問題と課題について,医療倫理的な側面から概観し,今後の認知症の人の運転研究の課題について述べた。

総説
  • 松浦 雅人
    原稿種別: 総説
    2017 年 29 巻 2 号 p. 125-131
    発行日: 2017/04/15
    公開日: 2023/09/13
    ジャーナル フリー

    てんかんの運転適性は2002年施行の道路交通法から絶対欠格でなく相対欠格となった。てんかんのある人は,無発作期間が5 年以上,無発作期間2 年以上で主治医が認めた場合,単純部分発作のみ,および睡眠中の発作のみの場合に,運転適性があると判断される。2014年から施行された改正道交法ではこの運用基準は変わっていないが,虚偽の病状申告に対する新たな罰則や,潜在的なリスクドライバーに対する医師による任意の届出制度など,新しいルールが設けられた。さらに同年,自動車運転死傷行為処罰法が施行され,てんかんなど政令で定める病気の影響で人を死亡させた場合に,最高で懲役15年の刑罰が科せられることになった。2015年に日本てんかん学会は警察庁との共同で実態調査を行い,てんかんの事故リスク比は1.16で,健常な20歳代男性や高齢者よりも低いことなどを明らかにした。諸外国では,てんかんの運転適性は無発作期間1年間を条件としている国が多く,日本てんかん学会は運用基準の再検討を勧告している。

総説
  • 成瀬 暢也
    原稿種別: 総説
    2017 年 29 巻 2 号 p. 132-142
    発行日: 2017/04/15
    公開日: 2023/09/13
    ジャーナル フリー

    「薬物と運転」といわれて浮かぶのは,危険ドラッグ使用によるセンセーショナルな暴走事件であろう。危険ドラッグは,抑制系では意識障害,筋硬直,無動,けいれんなど,興奮系では激しい興奮や幻覚妄想状態を引き起こす。多剤混合例ではより危険となる。覚せい剤は,中枢神経興奮作用があり幻覚妄想などを引き起こし,致死的事故の発生率を5.61倍に高める。ベンゾジアゼピン系薬剤を主とする鎮静薬は,交通事故率を高める多くの報告がある。大麻は,運動機能の低下とともに幻覚や知覚変容を引き起こし,致死的事故の発生率を1.83倍に高める。
    薬物乱用は運転に多大な悪影響を与え重大な事故を引き起こす。薬物依存症は薬物使用のコントロール障害であり,常に事故のリスクを負う。依存症は病気である。病者を懲らしめてもよくならず,かえって悪化する。「けしからん!」では解決しない。薬物依存症の治療には信頼関係の構築と動機づけが不可欠である。断薬を強要したり運転を禁じたりするだけでは治療から脱落し,事故は増えるであろう。運転事故を防ぐためには,治療者が信頼関係に基づいた適切な依存症治療を提供することが大切である。

一般投稿
総説
  • ─23カ国36施設の国際共同研究─
    中野谷 貴子, 楯林 義孝, 田形 弘実, 針間 博彦, Tasha Glenn, Michael Bauer
    原稿種別: 総説
    2017 年 29 巻 2 号 p. 143-151
    発行日: 2017/04/15
    公開日: 2023/09/13
    ジャーナル フリー

    双極性障害の発症には,環境因子と遺伝因子の双方が関与しており,太陽光は重要な環境因子の一つといわれている。われわれの研究グループでは,ドイツ・ドレスデン工科大学を中心に行われてきた,双極性障害の発症年齢と日射量との関連を調べる国際研究に参加する機会を得た。その結果,発症地における最大日射増加量が大きいほど双極Ⅰ型障害の発症年齢が低くなる傾向があること,その程度は家族歴がない場合,また初回エピソードが躁である場合,それぞれ約1/2,1/3に減少することがわかった。また乳児期の一定期間に浴びた日照時間が長いほど発症年齢は高くなる傾向があった。これらの結果は,太陽光が双極Ⅰ型障害の重要な環境因子であることを示唆する。一連の研究は日本国内のみで行うことは不可能であり,大規模国際研究で初めて可能になったと考えられる。今後さらに太陽光の様々な因子の双極性障害への影響について研究を進めていく予定である。

原著
  • 工藤 紗弓, 和田 一郎, 和田 久美子, 小西 聖子
    原稿種別: 原著
    2017 年 29 巻 2 号 p. 152-162
    発行日: 2017/04/15
    公開日: 2023/09/13
    ジャーナル フリー

    トラウマ体験を含む幼少期の困難な体験(Adverse Childhood Experiences:ACE)は長期的でネガティブな影響を与える。精神科入院治療中の患者53名,平均年齢53.1歳のACE体験率および累積数を調査した。また,ACE累積数と精神疾患発症時期について検討した。ACEは親の離婚あるいは別居,虐待など計8項目について尋ねた自記式のチェックリストを用い,ベースラインおよび10〜14週後の2回調査を行った。
    診断はF2統合失調症・統合失調症型障害及び妄想性障害(67.9%),次いでF3気分(感情)障害 (17.0%)であった。1つ以上ACEを体験した者は58.5%,平均累積数は1.2であった。また,ACEの有無および累積数について,ベースラインと再調査の比較において高い割合で一致していた(κ=0.87,κ=0.73)。さらに,ACEの有無による2 群比較では,ACEあり群のほうが初診年齢および入院初回年齢が低かった。このような結果は諸外国の先行研究と一致するものであり,日常の臨床活動においてACEの影響を考慮したアセスメントを行うことは重要である。

  • ─F4群,特に適応障害を中心に─
    松原 敏郎, 松田 敦子, 荻野 有香, 松尾 幸治 , 河野 通英, 渡邉 義文
    原稿種別: 原著
    2017 年 29 巻 2 号 p. 163-169
    発行日: 2017/04/15
    公開日: 2023/09/13
    ジャーナル フリー

    自殺企図者が,企図直後に搬送される総合病院の救急部において,自殺企図者の実態を詳細に把握することは,早期からの治療的介入に有用と思われる。今回われわれは,三次救急病院である山口大学病院先進救急医療センターに3年間で搬送された自殺企図者について実態調査を行い,その背景を検討した。当センターに搬送され,ICD-10に基づく精神医学的診断のついた自殺未遂者では,F4群,そのなかでも適応障害が最多であった。F4群の自殺未遂者の特徴としては,企図手段が軽症で,自殺企図の計画性を認めず,入院とならないなど転帰が軽症のものが多かった。しかしF4群を自殺企図歴の有無で分けて比較した場合,企図歴のある群はない群に比べ有意に年齢が若く,精神科通院歴のある者が多かった。適応障害の自殺企図は転帰が良いと報告されているが,患者が若年の場合,自殺企図が繰り返される可能性があり,より治療的介入が必要と思われた。

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