総合病院精神医学
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総説
薬物依存と運転
成瀬 暢也
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2017 年 29 巻 2 号 p. 132-142

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抄録

「薬物と運転」といわれて浮かぶのは,危険ドラッグ使用によるセンセーショナルな暴走事件であろう。危険ドラッグは,抑制系では意識障害,筋硬直,無動,けいれんなど,興奮系では激しい興奮や幻覚妄想状態を引き起こす。多剤混合例ではより危険となる。覚せい剤は,中枢神経興奮作用があり幻覚妄想などを引き起こし,致死的事故の発生率を5.61倍に高める。ベンゾジアゼピン系薬剤を主とする鎮静薬は,交通事故率を高める多くの報告がある。大麻は,運動機能の低下とともに幻覚や知覚変容を引き起こし,致死的事故の発生率を1.83倍に高める。
薬物乱用は運転に多大な悪影響を与え重大な事故を引き起こす。薬物依存症は薬物使用のコントロール障害であり,常に事故のリスクを負う。依存症は病気である。病者を懲らしめてもよくならず,かえって悪化する。「けしからん!」では解決しない。薬物依存症の治療には信頼関係の構築と動機づけが不可欠である。断薬を強要したり運転を禁じたりするだけでは治療から脱落し,事故は増えるであろう。運転事故を防ぐためには,治療者が信頼関係に基づいた適切な依存症治療を提供することが大切である。

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© 2017 一般社団法人 日本総合病院精神医学会
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