ヨーロッパの安楽死に関する議論は,医学専門家だけでなく,哲学,倫理,神学などの分野の専門家によっても倫理原則のコンセンサスを形成するために,1990年代から積極的に行われてきた。2000年代には,ベネルクス3国では安楽死や医師による自殺幇助が相次いで合法化された。その他の国や地域でも自殺幇助が合法化されており,終末期医療のあり方について幅広い視点から議論されている。本稿では終末期ケアを取り巻く状況を概観し,精神医学との関わりや求められる役割について論じた。世界における安楽死や自殺幇助の動向と,安楽死が合法化された国の制度を元に,その問題点を解説した。そのうえで,安楽死や自殺幇助が「患者の権利」の一部であるという考えもあることを認めながら,人生の最終段階における医学の立場を考察した。緩和ケアはその対象を拡大しており,精神医学ではさらに難しい課題があると考える。