総合病院精神医学
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30 巻, 3 号
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特集:女性のメンタルヘルス
総説
  • ─薬物療法の視点から─
    仙波 純一
    原稿種別: 総説
    2018 年 30 巻 3 号 p. 194-199
    発行日: 2018/07/15
    公開日: 2024/03/22
    ジャーナル フリー

    精神疾患では有病率や臨床経過,薬物反応性について性差がある。特に女性では,生物学的および心理社会的な要因が女性のライフサイクルと同期して疾患へ影響を及ぼしている。統合失調症の薬物療法では,高プロラクチン血症による無月経などから来る妊孕性の低下や乳がん,骨粗鬆症の発症リスクなどが問題となる。気分障害では,月経前不快気分障害や周産期のうつ病,閉経周辺期のうつ病など女性に特有の病態がある。周産期の精神障害では薬物による胎児や出産への影響,乳児への薬物の移行などが問題となる。双極性障害の治療では,妊娠による治療中断には再燃リスクが高まる一方で,気分安定薬には催奇形性が危惧されるものもある。女性に対する薬物療法については,女性特有の身体や妊娠出産への影響を,ライフサイクルにわたる再発・再燃の危険性を見据えながら評価していかなければならない。

総説
  • 馬場 元
    原稿種別: 総説
    2018 年 30 巻 3 号 p. 200-209
    発行日: 2018/07/15
    公開日: 2024/03/22
    ジャーナル フリー

    急速に進むわが国の高齢化を背景に,高齢者のうつ病は重要な健康課題である。そして他の世代と同様,高齢者のうつ病も女性に多い。高齢者のうつ病では不安性の症状や身体性の症状が多いが,その傾向は特に女性で強いとされる。発症には脳血管性障害などの器質的要因を背景に心理的要因が影響すると考えられるが,その心理的背景には高齢女性ならではの喪失体験がしばしばみられる。このため,治療においては第一にこうした心理的背景を十分に鑑みた心理・社会的介入が重要となる。 薬物療法においては,女性はSSRIに反応しやすいなどの報告もあるが,閉経後の女性においては閉経前の女性と比べて薬剤反応性は低下する。性別によらず,高齢者のうつ病に対しては薬物療法においても心理的なアプローチが重要である。

総説
  • 鈴木 映二
    原稿種別: 総説
    2018 年 30 巻 3 号 p. 210-219
    発行日: 2018/07/15
    公開日: 2024/03/22
    ジャーナル フリー

    向精神薬の血中濃度が女性と男性で異なる可能性があることは,実践的な臨床場面において以前よりいわれてきている。女性は胃酸分泌量が少なく,男性よりも胃内容物排出速度が遅く,それにより潜在的に吸収率が上昇する。女性は男性よりも分布容積が大きいため,排泄が長期化する可能性がある。女性は男性より肝臓が小さく,肝血流量も小さい。さらに,ほとんどのシトクロムp450 酵素は,性別によって活性に差があることが知られている。女性は,多くのウリジン二リン酸グルクロニル酵素の活性が低い。このように,多くの薬物動態に関わる重要な性差が示されているにも関わらず,向精神薬の血中濃度の性差に関する調査はほとんどない。女性が適切な用量で薬物治療を受けられるためには,より多くの研究が必要であろう。

総説
  • 種部 恭子
    原稿種別: 総説
    2018 年 30 巻 3 号 p. 220-228
    発行日: 2018/07/15
    公開日: 2024/03/22
    ジャーナル フリー

    女性の健康,特に妊娠については社会的決定要因の影響を強く受ける。近年,性交経験率の低下により,10歳代の人工妊娠中絶および出産は減っている。しかし,心の傷や貧困に適応するためにリスクの高い性行動を選択し,大人からの暴力や性的搾取の結果として妊娠するもの,特に15歳以下の妊娠については減っていない。このような子どもたちは経済的あるいは心の貧困家庭で育ち,面前DVや身体的・心理的・性的虐待を受けてきた結果,自己肯定感が低い。居場所を求めて家出をした後,JK ビジネスなどの性的搾取により深刻な被害を受けるケースもある。

    10歳代で出産に至った場合は貧困に陥るリスクが高く,再び性産業での搾取を受けたり,依存した男性からのDV被害を受けやすい。そのような環境で育つ次世代にも連鎖が起こる。女性に対する暴力・貧困・望まない妊娠の連鎖は,公衆衛生学的な課題ととらえ,包括的な取り組みの推進に向けて働きかける必要がある。

症例
  • 池本 桂子
    原稿種別: 症例
    2018 年 30 巻 3 号 p. 229-234
    発行日: 2018/07/15
    公開日: 2024/03/22
    ジャーナル フリー

    震災後の女性のメンタルへルスについて,東日本大震災後の災害拠点病院,いわき市立総合磐城共立病院精神科の2症例と女性の自殺未遂症例の動向を紹介した。震災発生後,震災と避難に関連したストレス以外に,犯罪と虐待の増加がメンタルへルスに悪影響を及ぼした。女性の自殺企図は,震災翌年の平成23年より3年間,毎年7 〜9月に症例数のピークを認めた。この時期は,お盆,帰省,夏季休暇などの時期にあたり,震災被害者の埋葬や避難に関連して家族の問題が表面化し,トラブルを生じやすく,また,異性との交遊が活発化し,恋愛や性に関連した問題が精神疾患発症のトリガーとなる例が増加した。震災後の女性のメンタルヘルスへ影響を与える諸要素について考察した。

一般投稿
総説
  • 櫛野 宣久, 古茶 大樹
    原稿種別: 総説
    2018 年 30 巻 3 号 p. 235-241
    発行日: 2018/07/15
    公開日: 2024/03/22
    ジャーナル フリー

    ヨーロッパの安楽死に関する議論は,医学専門家だけでなく,哲学,倫理,神学などの分野の専門家によっても倫理原則のコンセンサスを形成するために,1990年代から積極的に行われてきた。2000年代には,ベネルクス3国では安楽死や医師による自殺幇助が相次いで合法化された。その他の国や地域でも自殺幇助が合法化されており,終末期医療のあり方について幅広い視点から議論されている。本稿では終末期ケアを取り巻く状況を概観し,精神医学との関わりや求められる役割について論じた。世界における安楽死や自殺幇助の動向と,安楽死が合法化された国の制度を元に,その問題点を解説した。そのうえで,安楽死や自殺幇助が「患者の権利」の一部であるという考えもあることを認めながら,人生の最終段階における医学の立場を考察した。緩和ケアはその対象を拡大しており,精神医学ではさらに難しい課題があると考える。

経験
  • 北元 健, 吉村 匡史, 和田 大樹, 早川 航一, 齊藤 福樹, 中森 靖, 木下 利彦
    原稿種別: 経験
    2018 年 30 巻 3 号 p. 242-250
    発行日: 2018/07/15
    公開日: 2024/03/22
    ジャーナル フリー

    背景と目的:救急医療での脳波検査の有用性を調べるために本研究を行った。対象と方法: 2016年1~12月に,関西医科大学総合医療センター救命救急センターに入院した患者のうち,脳波検査を施行した68人,脳波検査80例を対象にした。検査を行った目的,脳波検査の結果(正常・異常)を調査した。結果:脳波検査を行った目的は,①持続する意識障害の精査は24例,②一過性意識障害の精査は13例,③けいれん発作後のフォローは29例,④昏迷が疑われる患者の精査は9例, ⑤その他は5例であった。検査結果は,正常は37例,異常は43例であった。①のうち,クロイツフェルト・ヤコブ病が1例,非けいれん性てんかんが1 例同定された。また③のうち,てんかん性異常波を認めた9 例で,検査後に抗てんかん薬の薬物調整が行われた。結語:救急領域において脳波検査は,疾患や病態の検索,抗てんかん薬の調整に関して有用性があると考えた。

  • ─精神疾患併存3次救急症例へのリエゾン対応─
    田宗 秀隆, 笠原 道, 寺澤 佑哉, 玉井 眞一郎, 清水 敬樹, 山本 直樹
    原稿種別: 経験
    2018 年 30 巻 3 号 p. 251-257
    発行日: 2018/07/15
    公開日: 2024/03/22
    ジャーナル フリー

    自殺企図した全症例に対する心理アセスメントが推奨されているが,致死性の高い自殺企図に焦点を当てた研究は乏しい。東京都立多摩総合医療センターは24時間精神科医にコンサルテーションでき,「並列モデル」が可能な総合病院である。精神疾患併存3次救急症例の特徴および救急科と精神科の連携の現状を明らかにすべく,平成26・27年度に3次救急搬送され精神科にコンサルトされた症例を後方視的に検討した。 全272例の中央値は41.5歳(四分位:28.0−51.3歳),男性は41.5%と,大学病院からの既報と概ね同等であった。全救急搬送を扱った既報と比して,3次救急搬送される致死性の高い自殺企図は相対的に高齢で,男性に多い傾向にあった。76.1%は翌日までにコンサルトされ,在院日数2日以下が68.8%であり,既報よりも処遇決定は迅速な傾向にあり,精神科入院が必要と判断された例は22.4%であった。診療科間・支援機関とのさらなる連携強化による,有効な介入の策定が期待される。

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