総合病院精神医学
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総説
酸化ストレスとせん妄
大山 覚照早川 清雄岸 泰宏
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2023 年 35 巻 1 号 p. 7-14

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抄録

酸化ストレスは,活性酸素種の産生が過剰になり,抗酸化防御機構とのバランスが崩れた状態である。ヒトが生命活動を営む上で酸素は必須であり,取り込んだ酸素の数%が活性酸素に変化すると考えられている。活性酸素は細胞内のミトコンドリアで主に産生され,シグナル伝達,細胞の分化・細胞死,免疫機能などにおける生理活性物質として働く。何らかの原因で活性酸素種が過剰になり,抗酸化防御機構を上回り,バランスが崩れると,細胞傷害を生じ様々な疾患の要因となる。高齢者では,酸化ストレスによる組織・細胞障害が蓄積し,抗酸化防御機構が弱まっており,脆弱性が高まっている。中枢神経系は,ミエリン鞘など脂質に富み,抗酸化防御機構が他臓器よりも弱く,活性酸素種により様々な病態が惹起されやすいと想定され,せん妄はその一つと考えられる。感染,代謝・循環障害などにより,脳組織細胞内の活性酸素種が過剰になると,細胞小器官・核酸・酵素やシグナル伝達分子に機能異常・傷害を来す。また,中枢神経系における免疫担当細胞であるミクログリアが活性酸素種・酸化物質やダメージ関連分子により活性化されると,活性酸素種が産生され,過剰な場合は細胞傷害を起こし得る。活性化したミクログリアは,血液脳関門のアストロサイトを傷害したり炎症性サイトカインを産生したりして,血液脳関門の透過性を高め,病原性物質・炎症性物質が脳内に入りやすい状態を作る。このような機序を通じて,酸化ストレスはせん妄の発症に寄与すると推測される。さらに,活性酸素種による細胞傷害は,不可逆的となり細胞死を起こし,神経変性につながる可能性もある。近年,中枢神経系での酸化ストレスを軽減する様々な方策が報告されているが,せん妄の急性症状の改善に有効な治療報告はない。しかしながら,抗酸化物質によりせん妄の発症予防やせん妄の後遺症状である認知機能低下を防ぐ可能性が示唆されており,今後の研究の発展が期待されている。

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© 2023 一般社団法人 日本総合病院精神医学会
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