2011 年 44 巻 8 号 p. 1024-1030
症例は79歳女性で,急性虫垂炎で発症した虫垂粘液嚢胞腺癌(stage II)に対して,腹腔鏡下回盲部切除術を施行した.1年4か月で卵巣転移と骨盤内腹膜播種性再発を来し,子宮付属器切除,播種巣の摘出を実施した.局所化学療法として,Cisplatin,5-FU,Mitomycin Cによる腹腔内化学療法を3回施行した.この治療後腹痛が生じるようになり,その後腸閉塞となったため,入院となった.画像所見では腹膜播種の増悪よりも嚢状物による腸閉塞の可能性が高いと判断された.開腹手術を実施した結果,腹膜播種の再燃は認めず,被嚢性腹膜硬化症の診断となった.硬化腹膜の剥離により症状は軽快した.虫垂癌腹膜播種への腹腔内化学療法に接する機会は少なく,これらに伴う被嚢性腹膜硬化症の報告はほとんどないが,その病態からは,発症する可能性を多く含んだ治療であることが示唆された.文献的考察を加え報告する.