2011 年 44 巻 8 号 p. 1055-1061
症例は79歳の女性で,以前より右鼠径部に膨隆を自覚していたが還納可能なため放置していた.膨隆が増大したため当院外科を受診し鼠径靭帯の尾側に径4cmの膨隆を認めた.腹部CTではヘルニア嚢内に腸管ガス像と腹水を認め用手還納は不可能であり大腿ヘルニア嵌頓と診断し,脊椎麻酔下に緊急手術を施行した.ヘルニア嚢内に漿液性腹水と虫垂の嵌頓を認めた.虫垂に軽度炎症を伴っており虫垂切除術とヘルニア根治術を施行した.術後合併症を認めず経過良好であった.本邦での鼠径部ヘルニアの虫垂・回盲部嵌頓症例を検討した.大腿・虫垂型は鼠径・虫垂型に比べ高齢女性に発症し,腸閉塞を高率に呈した.虫垂型は回盲部型に比べ腸閉塞発生率は低く,手術創は鼠径部のみであることが多かった.嵌頓した虫垂は壊疽性炎症の頻度が高く早期に壊死・穿孔に至る可能性が示唆された.ヘルニアに対するメッシュの使用は炎症が軽度であれば良好な成績であると考えられた.