症例は84歳の男性で,56歳時より脳梗塞でアスピリンを内服しており,腹痛を主訴に来院した.身体所見では腹部全体が板状硬で,腹部CTでダグラス窩に腹水とfree airを認めたため,汎発性腹膜炎と診断し緊急手術を施行した.S状結腸漿膜面に血腫を認め,これと連続する柔らかい腫瘤を結腸壁内に触知した.この周囲に膿の付着を認めたためS状結腸穿孔と診断し,S状結腸を部分切除し吻合した.切除標本肉眼所見ではS状結腸の漿膜下の血腫から連続する結腸壁内の粘膜下腫瘤と,腫瘤の頂部にびらんを認めた.この粘膜下腫瘤は病理組織学的に内輪筋層内に形成された血腫であった.アスピリンによる凝固機能障害を基礎に結腸壁内出血により血腫が形成され,血腫の圧迫により粘膜のびらん,腸壁の哆開を来して穿孔したと考えた.特発性大腸壁内血腫の本邦報告例は15例であるが,穿孔性腹膜炎を合併したのは自験例のみであった.