日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
後腹膜原発myxofibrosarcomaの1例
中村 謙一北上 英彦早川 哲史山本 稔田中 守嗣伊藤 誠
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2013 年 46 巻 3 号 p. 224-231

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Abstract

症例は62歳の男性で,増大する左側腹部腫瘤と同部の疼痛を主訴に当科を紹介受診した.CT,MRI所見で左腎を圧排する150 mm×110 mm大の腫瘤を認め,後腹膜悪性軟部腫瘍を疑い手術を施行した.腫瘍は左腎と一塊となり腹側で下行結腸と癒着していたため,下行結腸を部分切除し左腎とともに切除した.病理組織学的検査所見で後腹膜原発のmyxofibrosarcoma(以下,MFSと略記)と診断した.術後37か月目に腹腔内で急速に増大する腫瘍を認め,MFSの再発と診断し腫瘍を摘出した.その4か月後に腹腔内に6か所の腫瘍再発を認め全て摘出した.その後,補助化学療法としてMAID療法(MESNA+ADM+IFM+DTIC)を施行し,最終手術から4か月目現在で無再発である.MFSは中高年の四肢に好発するが,今回非常にまれである後腹膜原発のMFSの1例を経験したので報告する.

はじめに

粘液線維肉腫(myxofibrosarcoma;以下,MFSと略記)は中高年の四肢に好発する腫瘍で後腹膜原発はまれである1).今回,我々は再発を繰り返し急速に増大する後腹膜原のMFSの1例を経験したので報告す‍る.

症例

症例:62歳,男性

主訴:腹痛

既往歴:脳梗塞

家族歴:母 腹部腫瘍の切除歴あり,詳細は不明,姉 子宮癌

現病歴:左側腹部に腫瘤を自覚し,徐々に増大し疼痛を認めるため近医を受診し当院を紹介受診した.

入院時現症:意識清明,体温36.7°C,血圧162/87 mmHg,脈拍84回/分.左側腹部に可動性のある腫瘤を触知.左側腹部の自発痛はあるが圧痛はなし.

入院時血液検査所見:血算,生化学,腫瘍マーカー(CEA,CA19-9)に異常は認めなかった.

腹部造影CT所見:左腎を圧排する150 mm×110 mm大の境界明瞭な腫瘍を認め,内部は不均一に造影された(Fig. 1).

Fig. 1 

Abdominal-enhanced CT reveals a mass (arrow), 150 mm×110 mm in size, pressing the left kidney. Irregular enhancement is seen in the mass.

腹部MRI所見:腫瘍の内部はT1強調像で低信号を示し,T2強調像では不均一な高信号を示し,著明な高信号部分がモザイク状にみられた(Fig. 2).拡散強調画像では不均一な高信号を呈していた.

Fig. 2 

Abdominal MRI shows the tumor having a high signal on T2-weighted imaging (arrow).

以上より,粘液型malignant fibrous histiocytoma(以下,MFHと略記)や粘液型脂肪肉腫などの悪性軟部腫瘍を疑い,手術を施行した.

手術所見:腫瘍は小児頭大で左腎と一塊となっており腹側に突出していた.突出した頂部で下行結腸と癒着しており剥離は困難であり腫瘍の浸潤を疑った.そのため左腎と下行結腸を合併切除することで腫瘍を完全切除した.腹腔内に転移を疑わせる所見は認めなかった.

切除標本肉眼所見:摘出標本は腎実質を圧排する比較的境界明瞭な15 cm大の腫瘍で乳白色から黄色の多結節病変であった(Fig. 3).

Fig. 3 

The cut surface of the tumor (15-cm in diameter): the whitish to yellowish lobulated solid mass presses the kidney.

病理組織学的検査所見:粘液腫様間質を背景にして紡錘形の異型細胞が不規則束状に増殖する花むしろ様構造を示し,部位により疎密を有した.背景の膠原線維増生は目立たなかった.明瞭な壊死像はみられなかったが,多数の分裂像や少数の巨細胞が認められた(Fig. 4a).

Fig. 4 

Histopathologic features of the excised tumor. (a) An initially extirpated perirenal tumor, homogeneously exhibiting proliferation of bland spindle-shaped tumor cells is separated by myxoid stroma, while (b) a recurrent mesenteric tumor shows enhanced cellular pleomorphism with occasional bizarre giant cells. H.E. stain, ×200.

異型細胞はvimentin(+),CD34(+),S-100(–),SMA(–),AE1/AE3(–),mib-1 index陽性率 40~50%の形質を示した.切除標本の切片において腫瘍の腎,下行結腸への浸潤はなく,また断端に腫瘍細胞は認めなかった.

以上より,高異型度のMFSと診断し,American Joint Commission on Cancer(AJCC)system for soft tissue sarcoma(2002)においてstage III(size: >5 cm,Depth: Deep,Grade: High,Metastases: No)であった.

術後経過:術後は定期的な画像検査を行い,手術から32か月目の腹部造影CT所見にて再発を認めていなかったが,37か月目より2週間で急速に腹部が膨隆し,腹部CT所見で小腸間膜を主座とする300 mm大の腫瘍を認めた(Fig. 5).FDG PETでその他の部位に転移を認めず小腸切除を伴う腫瘍摘出術を施行した(Fig. 6).病理組織学的検査所見では初回手術と組織が同じでMFSの再発と診断した.単発であり,完全切除を行ったため,術後は経過観察を行った.しかし,その4か月後に再び急速な腹部膨隆と腸閉塞症状を来し,腹部CT所見にて腹腔内に6か所の腫瘍を認めた.FDG PETでは腹腔外に転移を認めず,手術を施行した.回腸末端から20 cm口側の腸間膜に小腸を巻き込む170 mm大の腫瘍と左側腹壁に60 mm大の腫瘍と盲腸足側の後腹壁に90 mm大の腫瘍と回腸末端の腸間膜に100 mm大,45 mm大,8 mm大の腫瘍を認め,全ての腫瘍を完全摘出した(Fig. 7).病理組織学的検査所見によりMFSの再再発と診断した.腫瘍が多発しており,微小な腫瘍の遺残の可能性を考慮し,3 度目の手術後に補助化学療法としてMAID療法(MESNA+ADM+IFM+DTIC)を現在までに1クール施行した.最終手術から4か月目の画像検査において再発は認めていない.

Fig. 5 

(a) Abdominal-enhanced CT shows a large abdominal tumor. (b) The coronal reconstruction enhanced-CT shows a large abdominal tumor.

Fig. 6 

The abdomen rapidly swells at 37 months after the first operation. The recurrent 300-mm tumor, originates in the mesentery. Arrows shows the small intestine.

Fig. 7 

The abdomen rapidly swells again 4 months after the second operation. The second recurrence in the peritoneum is diagnosed. Six recurrent tumors are seen in the peritoneum, and all are resected. Arrows shows the recurrent tumor.

考察

MFSは軟部悪性腫瘍の一つで1977年にAngervallら2)によって概念が提唱された.従来は悪性線維性組織球腫の中の粘液型と分類されてきたが,2002年の新WHO分類3)により悪性線維性組織球群に再分類された.WHO分類ではさまざまな粘液質の間質,多形性,および特有の血管配列パターンを伴う悪性線維芽細胞性病変と定義されている.組織学的に豊富な粘液基質を有しクロマチンに富む異型紡錘形腫瘍細胞が疎に増殖し,curvilinearと形容される発達した血管を伴う4).濃染性核を有する線維芽細胞様紡錘形ないし星芒状細胞がさまざまな密度で分布し,場所によってはそれらが渦巻き状ないし花むしろ状に配列する.病変内に多少とも多形性を示す腫瘍性巨細胞が存在することが診断に重要である5).通常,腫瘍は不完全な線維性隔壁で分画された多結節状の形態を示す.

画像診断としてMRI T2強調像では基本的に粘液質を反映した高信号を示し,腫瘍内の線維性隔壁を示す低信号の線状帯状構造も明瞭に描出されることが多い6)7)

山口ら8)の報告ではMFSは軟部悪性腫瘍の中の9.0%を占めるとされているが,大部分は中高年の四肢皮下に発生する腫瘍であり,後腹膜,腹腔内からの発生は極めてまれである1).また,後腹膜にはしばしば粘液状腫瘍が発生するが,大部分は高分化型脂肪肉腫や脱分化型脂肪肉腫であり,後腹膜に発生する粘液線維肉腫は極めてまれであるとされている4).本症例の鑑別疾患としては,未分化多形肉腫(旧分類ではMFH)が挙げられたが,未分化多形肉腫は定義上,腫瘍細胞の核の高度な異型性や巨細胞などを特徴とする腫瘍であり,本例は初発時のように比較的低異型度の紡錘細胞の増殖が主体で腫瘍細胞の多形性や巨細胞の出現が乏しくMFSと判断された.

1983年から2012年までの医学中央雑誌で「myxofibrosarcoma」or「粘液線維肉腫」and「後腹膜」をキーワードに検索すると後腹膜原発MFSの報告は5例のみであった(会議録を除く)9)~13).自験例を含めた6例の検討(Table 19)~13)では男性5例,女性1例,平均年齢59歳と中高年の男性に多くみられた.主訴は腫瘤の増大に伴う腫瘤近辺の疼痛や直腸脱の増悪や腫瘍の鼠径部圧迫による陰囊の腫大,疼痛などがみられた.腫瘍最大径は100 mmから240 mmまでで平均173 mmと増大してから発見される傾向にあった.

Table 1  Reports of retroperitoneal myxofibrosarcoma
No Authors Year Age Sex Size (mm2) Curability by operation Recurrence after operation Survival
1 Togo9) 2007 50 M 100×100 Yes No Alive 9 months after 1st operation
2 Matsubara10) 2007 77 F 240×140 Yes No available No available
3 Saijo11) 2009 45 M 220×140 No 8 months Dead 19 months after 1st operation
4 Takeda12) 2009 63 M 210×140 Yes 5 months Alive 17 months after 1st operation
5 Shimomura13) 2012 58 M 120×120 No available 17 months Alive 60 months after 1st operation
6 Our case 62 M 150×110 Yes 37 months Alive 45 months after 1st operation

MFSの治療に関しては外科的切除が必要である.腫瘍は肉眼的に境界明瞭にみえても顕微鏡下では周囲組織の浸潤傾向が強く広範囲切除が必要となる.しかしながら,広範囲切除後も術後の再発率は高い4).再発様式として,44%が局所に再発し,42%が遠隔転移を来すといわれている14).詳細の不明な2例を除く4例のうち1例は治癒切除不能で治癒切除が可能であった3例中2例に術後の再発を認めた(1例は術後5か月で肺転移を認め,もう1例は自験例).自験例では腫瘍と癒着していた腎臓や下行結腸などの周囲組織の合併切除を行い十分な切除縁を確保したが,術後37か月目に小腸間膜に再発を認めた.再発腫瘍は小腸に浸潤しており,小腸を合併切除し摘出した.しかし,再発腫瘍切除4か月後に再再発を認めた.2度目の再発に関しては病理組織学的検査所見で,切除した全ての腫瘍の組織構造が類似していたため,播種性再発が推測される.

MFSは再発を繰り返すにつれて悪性度が高くなるといわれている4).本症例でも再発時には2回とも短期間での急速な増大を認めた.また,初回切除時の病理組織学的検査所見では粘液腫状背景に比較的異型の乏しい紡錘細胞の増殖が主体であったが,核分裂像は豊富であり,高異型度と判断したが,再発を繰り返すにつれて旧来悪性線維組織球腫(MFH)と呼ばれた腫瘍にみられる多形性を帯びたI型の大型巨細胞化した腫瘍細胞を含む領域が観察された(Fig. 4).従って今後も再発を繰り返すごとに徐々に異型度が増していく可能性が示唆される.

化学療法に関してはMFS特有の治療法は確立されておらず悪性軟部腫瘍の化学療法に準じて薬剤を選択されることが多い.ADM,IFMは悪性軟部腫瘍に対するkey drugとされ,多剤併用療法としてCYVADIC療法(CPA+VCR+ADM+DTIC)の奏効率が28.1%15),ADM+IFM併用療法が27%15),MAID療法(MESNA+ADM+IFM+DTIC)が32%16)と報告されている.

本症例ではMAID療法を最終手術後の補助化学療法として選択し,術後4か月目のCT所見にて再発徴候を認めていない.今後もMAID療法を行っていくが再発時の薬剤の選択に関しては困難が予測される.

悪性軟部腫瘍には手術,化学療法だけでなく放射線療法17)18)などを含めた集学的治療が不可欠と考えられ,本症の治療方法の選択に関しても今後の症例の集積,検討が必要である.

悪性軟部腫瘍の予後に関する因子として外科的切除における十分な切除縁の有無,AJCC stage,組織学的悪性度,腫瘍径,深さ,年齢などが挙げられている18)19).後腹膜原発のMFSについては詳細記載のない1例を除いた5例中1例が術後19か月目に死亡している.4回の再発,手術を繰り返し,初回手術から60か月の生存例の報告もみられるが,長期観察例の報告は少ないため今後も予後についてのさらなる検討が必要である.

利益相反:なし

文献
 

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