日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
上行結腸間膜異常窩に生じた内ヘルニアの1例
沖田 充司藤村 昌樹千野 佳秀田畑 智丈水谷 真下代 玲奈舛田 誠二佐藤 功飯田 稔熊野 公束
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キーワード: 内ヘルニア, 結腸, 腸間膜
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2013 年 46 巻 3 号 p. 203-209

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Abstract

症例は46歳の女性で,腹痛を主訴に近医を受診し,腸閉塞の診断でイレウス管が挿入された.原因不明で,症状が改善しないため入院加療後12日目に当院紹介となり,手術を施行した.腹腔鏡で観察すると,回腸が上行結腸に強固に癒着していたため,閉塞解除が困難で原因の診断も困難であった.開腹に移行し,回盲部切除と上行結腸との癒着小腸を部分切除した.摘出標本と病理組織学的診断で上行結腸の腸間膜付着部異常窩に小腸が嵌頓した内ヘルニアと診断した.術後は順調に経過し術後第14病日に退院した.上行結腸間膜に生じた異常窩に小腸が嵌頓したまれな内ヘルニアの1例を経験したので文献考察を踏まえ報告する.

はじめに

内ヘルニアは,体腔内の異常に大きな窪み,窩,裂孔の中に臓器が入ることと定義され1),まれな疾患である.今回,腸閉塞で発症し,術前診断に難渋し,切除標本で確定診断に至った,上行結腸間膜異常窩に生じた内ヘルニアの極めてまれな症例を経験したので報告する.

症例

症例:46歳,女性

主訴:腹痛

既往歴:十二指腸潰瘍

家族歴:特記事項なし.

現病歴:腹痛,腹部膨満感と嘔吐のため近医で対症療法を受けたが,症状の改善がみられず,翌日他院を受診.3日間の通院対症療法でも改善せず,腸閉塞の診断で入院した.直ちに胃管さらに3日後にイレウス管挿入による減圧療法を施行したが,改善しないため,入院後12日目に手術目的で当院紹介入院.

現症:血圧112/74 mmHg,体温36.5℃,脈拍72/分整,腹部は平坦・軟で圧痛なく,排ガスを認めた.イレウス管は2 mの位置で固定されていた.

入院時血液検査所見:特記事項なし.

腹部CT(前医画像):前医入院時,上行結腸を圧排するように一塊となった小腸を認めた(Fig. 1a).イレウス管を留置し,1週間が経過したのちに再度撮影したところ,造影剤は結腸に達しているが,前回の小腸塊には変化を認めなかった(Fig. 1b).

Fig. 1 

CT findings. a: The locally clustered and dilated small intestine (circle) compresses the ascending colon (arrows). There was no obvious cause for the intestinal obstruction. b: After 1 week, the long tube insufficiently decompresses the small intestine, and contrast medium flows into the colon. No change is seen in the clustered intestine (arrow) compressing the ascending colon.

イレウス管造影検査(前医画像):小腸の先細り状の狭窄を認めた(Fig. 2).

Fig. 2 

Contrast radiography through the long tube shows that the tapered small bowel is obstructed (arrow) with dilatation on the oral side beside the ascending colon.

手術所見:原因不明の腸閉塞の診断で,先に腹腔鏡検査を施行した.上行結腸に回腸が強固に癒着しており,閉塞解除が困難と判断し,開腹手術に移行とした.回腸末端より1 mの所で上行結腸と強固に癒着していた(Fig. 3a, b).回盲部切除と小腸部分切除術を施行した.

Fig. 3 

a: Laparotomy reveals the ileum has firmly adhered to the ascending colon about 1 meter proximal to the ileum end. b: Scheme of intraoperative findings.

摘出標本所見:回腸が上行結腸の間膜付着部に入り込み周囲と強固に癒着していた.結腸内腔は壁外性圧迫像のみで明らかな病変を認めなかった.固定標本割面で小腸が上行結腸に接し間膜付着部の異常窩へ嵌入していた(Fig. 4a, b).

Fig. 4 

a: Macroscopic findings of formalin embedded surgical specimens. b: Macroscopic findings in the longitudinal section of the specimen. The ileum is embedded in an abnormal hole in the ascending mesocolon (arrows).

病理組織学的検査所見:小腸が上行結腸間膜へ嵌入していた.これにより上行結腸間膜付着部の異常窩に生じた内ヘルニアと診断した(Fig. 5).

Fig. 5 

Histological findings of the resected specimen reveals the ileum is embedded in an abnormal hole in the ascending mesocolon (arrows) (H.E. stain, loupe image).

術後経過:合併症なく経過し,術後14日病日に軽快退院した.術後5か月目の大腸内視鏡検査では異常を認めなかった.

考察

内ヘルニアはまれな疾患であり,腸閉塞を契機に発見されることが多く,イレウスの0.01~5%にすぎないと報告されている2).内ヘルニアには,後腹膜のくぼみに腹腔内臓器が嵌入する腹膜窩ヘルニアと腸間膜や大網などの異常裂孔に嵌入する異常裂孔ヘルニアに分類される3).天野4)の本邦での359例の集計中,腹膜窩ヘルニアを42.1%,異常裂孔ヘルニアを57.9%としている.なお,腸間膜裂孔の部位別の頻度では,小腸間膜裂孔が結腸間膜裂孔よりも多く,約70%を占めるとされる2)5).上行結腸間膜の内ヘルニアについては,過去の報告から異常窩,結腸間膜裂孔,後腹膜窩,腸間膜裂孔などさまざまな名称で報告され,統一されていない.上行結腸間膜は回転異常などで腸間膜が遊離した状態でないかぎりは,後腹膜の平坦な部分であるため6),分類上は腹膜窩ヘルニアになると考えられる.

上行結腸間膜に関する内ヘルニアの頻度について,角南ら7)は,1986年から2001年までの15年間に医学中央会雑誌に収録されている腸間膜裂孔ヘルニア147例を集計し,上行結腸間膜が0.7%であったとしている.本邦における報告は,医学中央雑誌刊行会Webによる「上行結腸」と「ヘルニア」をキーワードに1983年から2012年3月までの検索とこれら文献から集収した報告を含め7例のみであった(Table 16)8)‍~13).これらは上腸間膜動静脈より右側のいわゆる上行結腸間膜部に生じた異常窩にヘルニアを起こしている.しかしながら,本症例においては,上行結腸の腸間膜付着部に異常窩を生じ,内ヘルニアに至っている点で,過去の報告とはヘルニア門の位置が異なっており,新たな内ヘルニアの亜型と考えられ本邦初報告である可能性が高い(Fig. 6).

Table 1  Reported Japanese cases of internal hernia in the ascending mesocolon
Author Year Age/Gender Herniated organ Surgical procedure
Noguchi6) 1989 48 M Ileum Closure of the hiatus with the omental patch
Kin8) 1996 0 F Ileum Closure of the hiatus
Ishizaki9) 2000 91 F Small intestine Closure of the unusual hiatus
Mizuno10) 2003 87 F Jejunum Closure of the hernial gate Partial resection of the jejunum
Okamura11) 2006 72 F Jejunum Closure of the abnormal hole
Tsukuda12) 2006 80 M Ileum Closure of the defect of mesothelium Partial resection of the ileum
Sakai13) 2007 16 M Small intestine Closure of the hiatus Resection of the small intestine, Ladd operation, Appendectomy
Fig. 6 

Scheme of the internal hernia in the ascending mesocolon. All previous reports have presented the orifice of the hernia located in the mesenterium surrounded by the descending limb of the duodenum (Du), the superior mesenteric artery and vein (SMAV), and the ascending colon, most frequently the lateral area of the duodenum (circle ①). However, in our case, an abnormal hole is located in the area of the mesenterium attached to the wall of the ascending colon (circle ②).

内ヘルニアの成因について,先天性と後天性に分類される.先天性の成因について,腸間膜の萎縮穿孔,腸と腸間膜の発育不均衡,発生過程での生理的腸間膜組織消滅現象,腸間膜・血管発育異常,胎生期の内臓回転異常などがあり,後天性の成因として,手術,外傷,炎症などの既往があげられる4)5)14).本症例については,腹部手術や外傷の既往は全くないうえに,切除標本でみるかぎり上行結腸に憩室など誘因となる病変を認めず,術中所見でもMeckel憩室やヘルニア周囲の明らかな炎症性癒着も認めなかった.本症例の成因は明らかではなく,しばしば認める腸間膜の腸壁付着部に生じたしわや嵌凹に徐々に小腸が嵌入したか,または何らかの炎症により最初に小腸と上行結腸に癒着が生じ,経年的変化で小腸が入り込むほどの嵌凹を形成するに至ったか推測の域を出ない.本症例は以前に症状の発現がないことを除けば,ヘルニア門と小腸は強固に癒着していたことから,急激に嵌頓したものではなく,ヘルニア形成にかなり時間を要している可能性が高いと思われた.

術前診断においては,無症状であることが多く,腸閉塞に付随する臨床症状から推測することは困難である.このため画像検査が重要である.以前は小腸透視が用いられていたが,現在ではCTが第一選択である15).CTの代表的所見として,陥入した腸管・腸間膜脂肪層・血管群の集簇,拡張した陥入腸管ループが限局性に集簇し囊状構造を呈することなどがある16).本症例においては,ヘルニア門・囊が小さいため腸間膜の血管群が入り込むほどの変化を来しておらず,またまれな疾患でもあり腸閉塞の原因特定には至らなかった.原因特定困難な腸閉塞に,本疾患のようなまれな病態も念頭に置く必要があると思われた.

利益相反:なし

文献
 

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