日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
食道狭窄を呈した食道類上皮血管内皮腫(epithelioid hemangioendothelioma)の1例
徳毛 誠樹大橋 龍一郎治田 賢久保 孝文岡 智山川 俊紀泉 貞言小野田 裕士鈴鹿 伊智雄中村 聡子
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2013 年 46 巻 4 号 p. 243-252

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Abstract

症例は78歳の女性で,嚥下障害を主訴に2004年12月に内科を受診した.食道造影検査で胸部中部食道に長径約3 cmの狭窄を認め,上部消化管内視鏡検査では門歯から約28~30 cm部に狭窄を認めたが,粘膜面に腫瘍性変化は認められなかった.原因不明の食道狭窄としてバルーン拡張が実施され,症状は一時改善するも再燃を繰り返すため合計5回のバルーン拡張が実施された.その後も症状が再燃し持続するため,2006年8月に狭窄部へ食道ステントが留置された.しかし,食物残渣の貯留によるステントの閉塞と前胸部から心窩部にかけての持続する疼痛を認めるようになり,通過障害の根本的改善ならびに疼痛改善目的での手術加療を希望され外科受診となった.2006年9月に全身麻酔下に食道抜去・後縦隔経路の胃管再建,腸瘻造設を行った.切除標本の病理組織学的検討で狭窄部に一致して類上皮血管内皮腫が認められ,食道狭窄の原因であったと考えられた.

はじめに

類上皮血管内皮腫(epithelioid hemangioendothelioma;以下,EHEと略記)は,血管腫と血管肉腫との中間的な像または生物学的態度を示す血管性腫瘍である血管内皮腫の一亜型とされる1).好発部位は軟部組織,骨,肺,肝臓などとされ,食道原発の報告は検索の範囲において認められない.今回,我々は保存的治療に抵抗性の原因不明の食道狭窄に対して手術加療を行い,病理組織学的検討から食道原発EHEと診断された極めてまれな症例を経験したので報告する.

症例

患者:78歳,女性

主訴:嚥下困難

家族歴:特記すべきことなし.

既往歴:脳梗塞(32歳時,40歳時,61歳時),高血圧症(76歳時),急性心筋梗塞(77歳時).

現病歴:上記既往歴があるがperformance statusは比較的良好であり,自宅生活をされていた.嚥下困難を主訴に2004年12月に内科を受診し,食道造影検査で胸部中部食道に狭窄を認めたが,内視鏡検査では明らかな腫瘍性病変は指摘されなかった.原因不明の食道狭窄としてバルーンによる拡張が実施され,一時的に症状は改善したが再燃を繰り返した.合計5回の拡張術が実施されたが短期間で嚥下困難を生じ,一般的適応ではないが十分な説明のもと2006年8月に食道ステント(長径7 cm,ベアータイプ)が留置された.しかし,嚥下困難は改善せず,ステント留置の影響によると思われる前胸部から心窩部の持続する疼痛も認められるようになったため,外科受診となった.

外科受診時現症:眼瞼結膜に貧血を認めたが眼球結膜に黄染を認めなかった.腹部は平坦・軟で腫瘤を触知しなかった.前胸部から心窩部に持続する疼痛を訴えていたが,心肺に特記異常所見を認めなかった.疼痛に対して鎮痛剤を連日使用されていたが,発熱はなく全身状態は安定していた.

術前血液生化学検査所見:RBC 329×104/μl,Hb 10.3 g/dlと軽度貧血を認め,TP 5.5 g/dl,Alb 2.4 g/dl,ChE 58 IU/lと低栄養状態であった.WBC 4,700/μl,CRP 1.0 mg/dlと炎症反応の上昇はわずかで,squamous cell carcinoma-related antigenは0.9 μg/mlで基準値内であった.

CT所見:(内科初診時)胸部中部食道の全周性壁肥厚を認めるが,リンパ節腫張や他臓器転移を疑う所見は認められなかった(Fig. 1).(手術直前)食道ステント口側の食道に残渣を認めるが,縦隔気腫や膿瘍貯留など食道穿孔を示唆する所見は認められなかった(Fig. 2).

Fig. 1 

Chest CT of the first examination shows wall thickening of the middle thoracic esophagus.

Fig. 2 

Chest CT of the last examination just before operation reveals that the oral side of the esophageal stent is filled with food waste. There is no sign of esophageal perforation like as mediastinal emphysema or abscess.

食道造影検査所見:(内科初診時)胸部中部食道に長径約3 cmの狭窄を認めた(Fig. 3a).(食道ステント留置1週間後)食道ステント留置部に食物残渣の貯留を認めた(Fig. 3b).

Fig. 3 

Upper gastrointestinal X-ray examination findings; a: About 3-cm length stricture of the middle thoracic esophagus is seen (at the first examination). b: A 7-cm length covered stent is located at the stricture site of the thoracic esophagus (after 1 week from insertion). Oral side of the stent is filled with food waste.

上部消化管内視鏡検査所見:(内科初診時)門歯から約28 cmの胸部食道に粘膜垂を伴う狭窄部を認め,ルゴール染色では不染域を認めなかった.また,抵抗はあるが内視鏡は狭窄部を通過可能であった(Fig. 4a).20 MHzプローベで超音波内視鏡検査を実施したところ,内輪筋が全周性に肥厚していた(Fig. 4b).(食‍道‍ス‍テント留置直前)胸部食道の狭窄が進行し,通常内視鏡は狭窄部を通過できなかった(Fig. 4c).(食道ステント留置1週間後)食道ステント留置部に食物残渣が貯留していた(Fig. 4d).

Fig. 4 

Gastrointestinal fiberscopy findings; a: Stricture of the thoracic esophagus with mucosal tag at about 28 cm from the incisor is seen (at the first examination). It was possible to pass through its stricture for observation by using a normal-sized fiberscope. b: Endoscopic ultrasonography using a 20 MHz probe shows thickening of the internal orbicular muscle. c: Stricture of the thoracic esophagus became worse (at the time just prior to stent insertion). It was impossible to pass through its stricture by using usual size fiberscope. d: Esophageal stent is filled with food waste (after 1 week from insertion).

当初は平滑筋腫症を疑ったが,生検では浮腫性の間質に小血管,リンパ管の拡張を認めるも腫瘍性変化は認められなかった.治療経過中に再検されたが,やはり腫瘍性変化はなく確定診断できなかった.高齢のため保存的治療が選択されていたが,嚥下障害と食道ステント留置後の疼痛が持続するため,根本的治療として手術を計画した.

手術所見:全身麻酔下に頸部および腹部操作による食道抜去術を実施した.腹腔側から食道ステントの上縁まで触知できたが,触診上はステント留置部の食道後壁が菲薄化し損傷していると思われた.食道を抜去し後縦隔内を可及的に洗浄後,同経路で胃管を挙上し自動縫合器による三角吻合で再建した.腹腔内には腫瘍転移を疑う所見はなく,栄養管理目的に腸瘻造設を併施し終了した.

摘出標本所見:食道粘膜に食い込んだステントを除去したところ,約4×3 cm大の食道壁欠損を認めていた.術中操作で穿孔した可能性は否定できないが,ステント留置部の食道壁がステントにより伸展され脆弱化していたものと推察された(Fig. 5).

Fig. 5 

Macroscopic findings of the resected specimen after removal of the stent; Esophageal wall is lack of about 4 by 3 cm in correspond to the stenting site.

病理組織学的検査所見:ステント留置部に一致して好中球を混じる中等度の炎症や浮腫,線維化,小血管増生を示す肉芽化を伴ったびらんや上皮の再生性変化が拡がっていた.豊富な好酸性の胞体を有する類円形の上皮細胞様形態を呈しており,鍍銀染色結果も踏まえ上皮細胞様増殖と判断した.腫瘍の範囲は判定困難であり,硝子化基質の存在は明らかでなかった.ステントの金属線の一部は固有筋層深部から外膜に達していたと考えられ,食道壁損傷への影響が示唆された.ステント留置部の変性壊死が目立つ中央部分において,固有筋層内を主体として大型核と明瞭な核小体を有する細胞が索状から小胞巣状を呈して増生する部分を認め,印環細胞様の小空胞が散見された(Fig. 6).免疫染色検査で血管内皮マーカーのCD31,D2-40,UEA-1が陽性であり(Fig. 7),電子顕微鏡検査は実施していないためSeibel-Palade bodyの存在は不明であるが,組織像と併せてEHEと診断した.なお,核分裂像は10高倍視野あたり2~3個程度であった.

Fig. 6 

Microscopic findings (H.E. stain); a: Erosion and regenerative epithelial change with moderate inflammation including neutrophil, edema, fibrosis and granulation were expressed correspond to the part of removal of the stent. b, c, d: At the part of the center of removal of the stent, the cells of large nucleus and evident nucleolus growing funis to cellule and small vascular channels are seen mainly in the muscular layer of the mucosa.

Fig. 7 

Microscopic findings (immunohistochemical stain ×400); Some endothelial markers (CD31, UEA-1 and D2-40) and Vimentin were positive.

術後経過:排痰困難のため気管切開管理を必要としたが,徐々に全身状態は改善した.食事摂取量は十分ではなかったが,嚥下困難と疼痛は改善し,リハビリテーション目的に転院となった.その後,詳細は不明であるが術約4か月後に永眠された.

考察

食道の通過障害は機能的障害と器質的障害に大別されるが,いずれも程度の差はあるが嚥下困難を主訴とする.機能的障害の代表的疾患はアカラシアであるが,まれな疾患としてはび慢性食道痙攣,強皮症,アミロイドーシス,精神的疾患などがあげられる.器質的障害の代表的疾患は悪性疾患としては食道癌,甲状腺癌や転移性リンパ節による壁外性の圧迫があげられ,良性疾患としては食道異物,大血管走行異常による圧排,高度な逆流性食道炎による瘢痕狭窄,放射線照射後,内視鏡的粘膜切除術後,術後吻合部狭窄,腐食性食道炎,薬剤性食道炎などがあげられる2).本症例は食道造影検査で胸部食道に限局性狭窄を呈していたが,内視鏡検査では狭窄部に腫瘍性病変は指摘できなかった.超音波内視鏡検査で内輪筋の肥厚を認め平滑筋腫症を疑ったが,確定診断には至らなかった.初回内視鏡所見で狭窄部に粘膜垂を形成しており,何らかの潰瘍形成があったと推測された.生検結果と少量の飲水での内服習慣という生活歴を踏まえ,薬剤が停滞することに起因した一種の薬剤性食道炎と診断していた3).治療は全身状態を考慮の上でバルーン拡張から開始し,症状に応じて数か月おきに5回実施したが,症状が消失するには至らなかった.次に食道ステントを留置したが,症状改善効果に乏しく,前胸部から心窩部の持続する疼痛という弊害も伴った.最終的に侵襲は大きくなったが,手術を選択することで嚥下困難は改善し,ステント留置後に出現していた疼痛は消失した.

今回指摘されたEHEは血管内皮腫の一亜型であり,他にKaposi様血管内皮腫,網状様血管内皮腫,乳頭状リンパ管内血管内皮腫,複合血管内皮腫,多形血管内皮腫に細分類されている.これら血管内皮腫の中において,EHEは他の血管内皮腫に比べると転移率が高いことから悪性腫瘍に規定され,その他の亜型は中間悪性腫瘍に規定されている.好発部位は軟部組織,骨,肺,肝臓などとされており,消化管発生の報告は少ない4)~8).予後は血管性腫瘍の中では血管腫と血管肉腫の中間とされる.EHEの特徴的な組織像は細胞質内に境界明瞭な空胞を有することで,しばしばその中に赤血球を容れるとされる.また,免疫染色検査では第VIII凝固因子関連抗原,CD31,CD34などの血管内皮マーカーが陽性であることが多く,keratinが陽性となる場合もあるとされている1).本症例ではCD34,第VIII凝固因子関連抗原は陰性であったが,血管内皮マーカーとしてはCD34よりも特異性が高いとされるCD31が陽性であり,他にD2-40,UEA-1も陽性であった.食道の上皮様形態を示す腫瘍の鑑別診断としては,良性の間葉系腫瘍として,①類上皮血管腫,②類上皮型平滑筋腫,悪性の上皮性腫瘍として,③癌腫,悪性の間葉系腫瘍として,④類上皮血管肉腫,⑤類上皮悪性末梢神経鞘腫瘍,⑥軟部混合腫瘍,⑦類上皮肉腫,⑧類上皮型平滑筋肉腫,⑨類上皮型gastro intestinal stromal tumor,⑩悪性黒色腫が挙げられた.それぞれの鑑別ポイントとなる異型度,免疫染色検査結果を提示した(Table 1).細胞異型の程度から①②③④⑩を除外,③はAE1/AE3,CAM5.2,Pankeratin,EMAなどの上皮性マーカーが陽性となるため除外,⑤⑥は血管内皮マーカーが陰性でS-100が陽性となるため除外,⑦はCD34陽性だがCD31陰性となるため除外,②⑧はαSMAなどの筋原性マーカーが陽性となるため除外,⑨は通常型のGISTに比べ,CD34が陰性となることも多いが,c-kitあるいはPDGFRAが陽性となるため除外,⑩は異型度に加えて,S-100陽性となる点でも除外された.過去の報告9)~12)からEHEにおける血管内皮マーカーの陽性率は必ずしも100%ではないため,各種免疫染色検査の結果と異型度を対比し,小空胞が散見される特徴的な組織像とを併せて総合的にEHEと最終診断した.なお,類上皮血管腫,類上皮血管肉腫はいずれも血管内皮マーカーが陽性となるため,鑑別は核異型と構造で行った.具体的には核異型(なし・軽度・高度)と構造(血管形成の有無や細胞の並び方)を指標に行った.EHEの食道発生の報告は医学中央雑誌で「食道」,「類上皮血管内皮腫」,「epithelioid hemangioendothelioma」をキーワードに1983年から2011年の期間を検索したところ報告を認めなかった.また,PubMedで「esophagus」,「epithelioid hemagioendothelioma」をキーワードに1950年から2011年で検索したところ同様に報告を確認できなかった.しかし,「esophagus」,「hemangioendothelioma」をキーワードに検索したところ1件の報告が認められた13).この報告例が,現在の分類ではEHEである可能性も否定はできないが,免疫染色検査などの記載はなく判断できなかった.

Table 1  Results of immunohistochemical staining and differential diagnosis
Grade of atypism CD31 CD34 Factor VIII D2-40 UEA-1 AE1/AE3 CAM 5.2 Pankeratin EMA Vimentin c-kit S-100 αSMA PDGFRA
Our case mild + + + +
①epithelioid hemangioma none
②epithelioid type of leiomyoma none +
③carcinoma severe + + + +
④epithelioid angiosarcoma severe
⑤epithelioid malignant peripheral nerve sheath tumor +
⑥soft parts mixed tumor
⑦epithelioid sarcoma +
⑧epithelioid type of leiomyosarcoma +
⑨epithelioid type of GIST (–) + +
⑩malignant melanoma severe +

消化管発生のEHEとしては胃,十二指腸,結腸に報告を認める4)~8).主な症状としては腫瘍部からの出血による貧血,消化管狭窄による腹痛,摂食量低下による体重減少などが挙げられている.消化管出血の原因になることが,血管性腫瘍の特徴と推定される.また,出血源精査などの原因検索の一環で術前に内視鏡検査を施行されている症例がほとんどであるが,EHEの主座は粘膜下で粘膜面に変化を認めないため,病変が指摘されていても術前に確定診断できている報告は見られなかった.最終的に手術加療を選択した症例において,摘出標本の病理検索からEHEと確定診断されているが,一般的に治療としては完全切除が必要と考えられる.悪性腫瘍とはいえリンパ節の定型的な郭清の意義は不明であり,術式としては局所の遺残なき切除を目指すことで必要十分と考えられる.薬物治療として現在のところ確立されたものはないが,転移再発の可能性があることを踏まえ術後も定期的な経過観察が望まれる.なお,本症例は術後約4か月で永眠されたが,残念ながらEHEの再発の有無ならびに死因との因果関係など詳細は不明である.

本症例は食道狭窄による嚥下困難で発症し,消化管出血など腫瘍出血は経過中に認めなかった.また,術前には腫瘍性病変として認識できず,薬剤性食道炎による良性食道狭窄の診断で保存的治療を行っていた.嚥下困難症状の持続とステント留置後に出現した疼痛のために手術を選択し,術後にEHEと確定診断したわけだが,結果的に自覚症状出現からは約3年間の自然経過追跡がなされたことになる.悪性度の高い腫瘍とされているが,本症例においては原発巣と考えられる食道局所以外に腫瘍進展の所見は認められず,消化管EHEの経過を知るうえで興味深い1例ではないかと考えられた.

なお,本論文の要旨は第96回日本病理学会総会(2007年3月,大阪)および第64回日本食道学会学術集会(2010年8月,久留米)において発表した.

利益相反:なし

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