日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
腫瘍径10 mmかつ単発で発見された肝類上皮血管内皮腫の1切除例
清水 尚小川 哲史田中 俊行五十嵐 隆通榎田 泰明富澤 直樹安東 立正坂元 一葉伊藤 秀明竹吉 泉
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キーワード: 類上皮血管内皮腫, , 単発
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2013 年 46 巻 4 号 p. 253-259

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Abstract

症例は64歳の女性で,2008年9月,進行胃癌の診断で,幽門側胃切除,D2郭清術が施行された.病理学的進行度はStage IIIAであった.術後,S-1内服を開始したが,薬疹の出現によりUFT/PSK併用に変更し,1年間内服した.2009年9月,肝S8に造影CT平衡相で低吸収域を示す腫瘍を認め,2010年9月のCTでは約10 mm程度にまで増大していた.MRIで胃癌肝転移が疑われたが,FDG-PETで明らかな異常集積は認められず,肝生検を施行したところ,印環細胞様に見える細胞内血管腔を認め,CK20陰性,CD31・CD34はともに陽性を示し,類上皮血管内皮腫と診断された.肝S8部分切除術を施行し,病理組織学的検査所見は生検と同様の所見であり,複数の箇所で門脈浸潤を認めた.術後経過は良好で,術後11病日に軽快退院となった.1年5か月経過した現在,転移再発はなく,外来で経過観察中である.

はじめに

類上皮血管内皮腫(epithelioid hemangioendothelioma;以下,EHEと略記)は血管内皮由来のまれな非上皮性腫瘍である1)~4).今回,我々は進行胃癌術後1年経過時に数mm大の肝腫瘤として発見され,術後2年経過時に10 mm大にまで増大傾向を示した単発性肝類上皮血管内皮腫の1切除例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

症例

症例:64歳,女性

既往歴:アルコール性肝炎(詳細不明),60歳時,急性汎発性腹膜炎手術.

生活歴:経口避妊薬の使用経験なし,更年期障害に対する女性ホルモン補充療法の治療経験なし.

現病歴:2008年9月,多発進行胃癌の診断で,当科において幽門側胃切除,D2郭清,Billroth-I法再建術が施行された.病理組織学的検査所見は,①M,Less,por2>tub2,pT3(SE),ly2,v2,②M,Ant,por>sig,pT2(MP),ly3,v3,pN1,H0,P0,M0,pStage IIIAであった.2008年10月より術後補助化学療法としてS-1が開始されたが,Grade 3の薬疹が出現したため中止され,UFT/PSK併用療法が1年間施行された.2009年9月,CTで肝S8に微小な低濃度腫瘤陰影を認め,2010年3月のCTでやや増大傾向にあり,9月のCTでは約10 mm程度にまで増大したため精査を施行した.

現症:眼瞼・眼球結膜に貧血・黄疸を認めなかった.上腹部は平坦で,圧痛を認めず.体表リンパ節は触知しなかった.

血液検査所見:ヘモグロビンが10.5 g/dlと軽度の貧血を認め,クレアチニンが1.3 mg/dlと軽度上昇を認めたが,それ以外は腫瘍マーカーを含めて特に異常はなかった.

腹部CT所見:肝S8に徐々に増大傾向を示し,造影CT平衡相で低吸収域を示す約10 mm程度の腫瘍を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

(A) Computed tomographic images showing a low-density area in liver segment 8 at 12 months after the operation for advanced gastric cancer (arrow). (B) The tumor had gradually increased to 10 mm in size by 24 months after the operation (arrow).

腹部MRI所見:T1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号を示し(Fig. 2A),EOB・プリモビストによる肝細胞造影相で低信号となる腫瘤性病変を認め(Fig. 2B),転移性肝癌に矛盾しない所見であった.

Fig. 2 

(A, B) Magnetic resonance image (MRI) showing a tumor in liver segment 8. The tumor had high intensity on T2-weighted images (white arrow) and low intensity in the hepatobiliary phase on ethoxybenzyl MRI (black arrow). (C) Ultrasonography showed a hypoechoic area in liver segment 8, but no blood flow signal in the tumor (arrow).

腹部US所見:肝S8に約10 mmの類円形の低エコー腫瘤を認めた.血流シグナルは認めなかった(Fig. 2C).

FDG-PET所見:肝臓およびその他の臓器にFDGの異常集積は認めなかった.

上部および下部消化管内視鏡検査を施行したが,特に異常を認めず,画像所見から悪性病変の可能性を否定できないため,エコーガイド下に経皮的肝腫瘍生検術を行った.

肝腫瘍生検所見:HE染色で線維芽細胞や類上皮細胞の増生に混じて印環細胞様の小腔が散在し,その内腔に赤血球を含んでいた(Fig. 3A).免疫組織化学染色検査で消化管上皮細胞マーカーであるCK20が陰性である一方,血管内皮細胞マーカーであるCD31,CD34はともに陽性であり(Fig. 3B),肝類上皮血管内皮腫と診断された.

Fig. 3 

(A) Histopathological findings showed that tumor cells had cytoplasmic vacuoles representing vascular luminae, some of which contained erythrocytes (arrow). (B) Immunohistochemical examination revealed that the tumor cells were positive for CD34. (C) Macroscopically, the tumor was 10 mm in diameter, and the coexistence of white and red colors was observed (arrow). (D) Invasion of tumor cells was seen in some marginal portal veins (arrow).

増大傾向を認めていることから手術適応と判断し,2011年1月,手術を施行した.

手術所見:3度目の開腹手術のため著明な癒着を認めたが,可及的に癒着剥離を行い,肝S8部分切除術を施行した.手術時間は3時間47分,出血量は370 gであった.

切除標本所見:肝S8に径10×10 mm大の,腫瘍内に赤色調が混在する灰白色円形腫瘤を認めた(Fig. 3C).

病理組織学的検査所見:HE染色および免疫組織化学染色検査において,肝腫瘍生検と同様の組織像を認めた.複数の個所で門脈への進展がみられた(Fig. 3D).

術後経過:術後合併症なく経過は良好で,術後11病日に軽快退院した.術後1年5か月が経過したが,胃癌および肝EHEともに転移再発なく外来通院中である.

考察

EHEは1982年にWeissら1)により最初に報告された血管内皮細胞由来の非上皮性腫瘍である.軟部組織,肝臓,肺,骨などに発生し,生物学的悪性度は血管腫と血管肉腫の境界型腫瘍と考えられ,発育は比較的緩徐といわれている2)3).肝原発のEHEの発生頻度は,100万人に1人未満と報告されており,非常にまれな疾患の一つである2)4).肝表面に局在し,進行とともに多発・癒合傾向を示すことが肝EHEの特徴とされており5),無症状で進行するため早期発見が困難であり,診断時には肝外病変を合併している場合が少なくない2)3)6)7).医学中央雑誌で1983年から2012年までに「類上皮血管内皮腫」,「肝」をキーワードとして検索すると85症例(会議録を除く)あり,そのうち肝原発の類上皮血管内皮腫は48症例であった.そのうち単発で診断された症例は7症例8)~14)に過ぎず,腫瘍の最大径は25~80 mm(平均41 cm)でいずれも20 mmを超えており,最大径20 mm以下かつ単発で診断された報告例はなく,本症例が単発で発見された最小の腫瘍と考えられる.

肝EHEの画像所見は,USでは低エコー,単純CTでは時に石灰化を伴う低吸収域,MRIのT1強調画像では低信号,T2強調画像では高信号の腫瘤として描出されるのが一般的である6).造影CTやMRIでは辺縁がやや造影されtarget appearanceを呈する症例が多いと報告されている6)9).最近,肝EHEの診断にFDG-PETが有用であるとの報告が少数ではあるが散見される.1983年から2012年までに,「肝類上皮血管内皮腫」,「FDG-PET」をキーワードとして,医学中央雑誌およびMEDLINEで検索しえた11例に本症例を含めた12例のうち,3例では集積を認めなかったが,6例で均一な集積,3例でリング状もしくは部分的な集積を認めている8)9).本症例のような小さい腫瘍では集積しない可能性があるが,肝外病変の評価および治療方針の決定に際しPETは有用と考えられ,本疾患におけるFDG-PETは意義のある検査と思われる.

肝EHEの病理組織像は,腫瘍の中心部に間質成分,辺縁部に腫瘍細胞が豊富で,腫瘍境界部では肝細胞索を巻き込みながら増殖するために境界が不明瞭となる15)~17).腫瘍細胞は短紡錘形の線維芽様細胞と類円形の上皮様細胞が混在し,その中に印環細胞様に見える細胞内血管腔を認めるのが特徴的で,免疫組織化学染色検査で血管内皮細胞のマーカーであるCD31,CD34,第VIII因子関連抗原が陽性であることにより診断が確定される15)~17).また,類洞,門脈および肝静脈に血管内発育することがあり9)18),本症例でも小さな腫瘍でありながら,門脈への進展が複数の箇所でみられた.

確定診断には肝腫瘍生検が有用であるが,線維芽細胞主体の部位を採取すると炎症性偽腫瘍と誤診されることがあるため注意が必要である15).また,肝表面に近接した病変で正常肝を介しての生検が困難な場合には,腹腔鏡下の腫瘍生検が播種リスクを回避する上で有用であると報告されている4)

肝EHEに関する海外および本邦で報告されているreview(Table 1)をみてみると2)3)6),平均年齢は42~46歳で,女性に多い傾向にある.有症状では腹痛が30~48%と多いが,無症状(25~40%)である場合も少なくない.なかには,10~20年以上もの自然経過をたどっている症例が含まれているが極めてまれで,80~87%の患者がすでに多発肝腫瘍と診断され,その80%以上が根治的切除不能な状態で発見されている.肺やリンパ節などの肝外病変も27~37%と比較的多く,経脈管的に浸潤し肝内および肝外転移を来す生物学的特性をもっていることが示唆される.切除率は約10~20%と低く,5年生存率は40%前後と予後は比較的不良である.Mehrabiら2)の報告では,治療経過の追えた286症例のうち,肝切除が施行しえた症例は27例(9.4%)に過ぎない.しかし,肝切除しえた症例の5年生存率は75%と良好であり,根治切除が可能であれば積極的に肝切除を施行していくことが予後改善に寄与すると考えられる.また,Mehrabiら2)は,128例(44.8%)もの肝移植症例の集積および検討を行っており,その5年生存率は54.5%と報告している.最近の報告では,肝移植成績の向上に伴い,肝EHEに対する肝移植術後の5年生存率は向上し,67~83%と報告されている19)20).また,Lerutら19)は,リンパ節転移などの肝外病変を有する肝切除不能症例10例に対する肝移植の検討を行い,その5年生存率は80%と肝外病変のない症例の5年生存率(83%)と同等の治療成績が得られたと報告している.肝外病変を伴わない症例のみならず,比較的限局した肝外病変を有する切除不能肝EHE患者に対しても肝移植術は治療のオプションとして念頭に入れておく必要があると考える.

Table 1  Reviews of the cases with hepatic epiterioid hemangioendothelioma in the literature
Makhlouf (1999)3) Mehrabi (2006)2) Yuasa (2006)6)
Number of patients 137 402 46
Age 46 (12–86) 41.7 (3–86) 46.3 (16–82)
Sex (Male:Female) 2:3 2:3 1:3
Symptom (none/abdominal pain) (%) 40/30 25/48 40/37
Number of tumor (single/multiple) (%) 20/80 13/87 19/81
Extrahepatic manifestation (%) 27 37 35
Resection rate (%) 10 9.4 (*44.8) 20
5 years survival rate (%) 43 41 (*54.5, **75) 38

* liver transplantation (%), ** liver resection (%)

本症例を含む本邦の肝EHE単発症例8例を検討すると,女性が6例と多く,いずれも無症状で,健診もしくは他疾患の精査時に発見された症例がそれぞれ5例,3例であった.記載のない1例を除き7例が肝切除術を施行されており,予後の記載のない1例を除き6例全例が生存中で,単発症例の予後は良好であった.

肝EHEは,診断時には多発肝腫瘍として発見されることが多く,それが多中心性に発生したものなのか,一つの腫瘍から経門脈的に浸潤転移したものなのかを判断することは困難である.しかし,本症例のように10 mm大程度の小さな腫瘍でも病理組織学的に門脈内浸潤を複数の箇所で来していることを考慮すると,多中心性に発生するというよりも経門脈的浸潤により多発肝内転移を来す生物学的特性を持っている可能性が十分考えられ,肝EHEの生物学的悪性度は決して低くないと推察しえる.また,肝EHEと診断されてから2週間で死に至った症例2)や,異型度の低い組織型で緩徐に経過していた腫瘍が悪性転化により急激に増悪した症例21)の報告もあり,本疾患の臨床経過を予測することは困難な場合があるので注意が必要である.

進行胃癌術後の経過観察中に,腫瘍径10 mmかつ単発で発見された微小肝EHEの1切除例を経験した.肝EHEはまれな疾患であるが,増大傾向を示す肝腫瘤の鑑別診断として,肝EHEを念頭に入れておく必要があると考える.肝EHEと診断された場合もしくは疑わしい場合には,切除可能であれば積極的な肝切除を施行することが患者の予後改善に寄与すると考える.

本論文の主旨は第19回日本消化器関連学会週間(JDDW,2011年10月20~23日,福岡)で発表した.

利益相反:なし

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