抄録
症例は72歳の女性で,67歳時に胸部下部食道癌に対して右開胸開腹食道亜全摘術3領域リンパ節郭清術・後縦隔挙上胃管再建を受けた.今回,閉塞性黄疸となったため精査したところ乳頭部癌の診断となった.本症例に対して右胃大網動静脈および右胃動静脈を温存した胃管温存の幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.術後経過は良好であった.食道癌術後で胃管による再建が行われていると,胃管の血行は右胃大網動脈が主なものであると考えられる.文献上は自験例も含めて本邦に16例の食道癌術後の膵頭十二指腸切除術の報告がある.ほとんどの症例で右胃大網動脈は温存されていた.右胃大網静脈は切離された症例もあった.食道癌術後の膵頭十二指腸切除術に際しては,手術による根治度と手術侵襲のバランスを考慮して,適切な術式を選択すべきである.今回,著者らは右胃大網動脈温存の胃管温存膵頭十二指腸切除術を経験した.