日本消化器外科学会雑誌
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47 巻, 11 号
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原著
  • 伊良部 真一郎, 安富 淳, 草塩 公彦, 松本 正成, 鈴木 大, 飯田 文子, 島崎 怜理, 竹林 三喜子, 宇田川 郁夫
    原稿種別: 原著
    2014 年47 巻11 号 p. 651-658
    発行日: 2014/11/01
    公開日: 2014/11/14
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     目的:急性胆管炎・胆囊炎診療ガイドライン2013が公表され,急性胆囊炎に対し重症度やリスクを評価したうえで早期腹腔鏡下胆囊摘出術が推奨されている.しかし,近年増加している抗血小板薬を服用中の患者に対する早期手術の安全性は明らかでない.今回,我々は抗血小板薬を服用中の急性胆囊炎早期手術症例を後方視的に調査し,その安全性について検討した.方法:2010年4月より2013年5月までに当院で急性胆囊炎に対して手術が施行された症例を抗血小板薬内服群(A群)と非内服群(N群)に分け,術式,手術時間,出血量,手術前後の血中ヘモグロビン変化率,術後在院日数,術後合併症につき比較検討した.結果:A群19例,N群111例であった.A群では18例(94.7%)で腹腔鏡下に手術を開始し,術中開腹移行は1例であった.腹腔鏡下に手術を開始した症例で検討すると,患者背景はA群で有意に高齢(72歳vs 62歳)で,術後在院日数も長い傾向(9.4日vs 7.1日)であったが,手術時間(103分vs 86分),術中出血量(117 ml vs 63 ml),血中ヘモグロビン変化率(–8.9% vs –10.1%)にはいずれも差を認めず,出血性合併症も認めなかった.結語:抗血小板薬内服中でも,急性胆囊炎に対する早期腹腔鏡下胆囊摘出術は安全に施行できると考えられた.
症例報告
  • 川上 次郎, 安部 哲也, 植村 則久, 川合 亮佑, 浅野 智成, 佐藤 洋造, 稲葉 吉隆, 清水 泰博, 篠田 雅幸
    原稿種別: 症例報告
    2014 年47 巻11 号 p. 659-667
    発行日: 2014/11/01
    公開日: 2014/11/14
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     症例は69歳の男性で,胸部中下部食道癌cT3N2M0 cStage IIIに対し,根治的化学放射線療法を施行した.7か月後局所再発を来しサルベージ手術を施行した.術後4時間から経腸栄養を開始したところドレーン排液が白濁し,乳糜胸と診断した.経腸栄養を中止,TPNを開始し,リピオドールリンパ管造影で右上縦隔に2か所の漏出部位を特定した.オクトレオチド投与と胸膜癒着では排液の減少は得られなかった.術後17日目に右上縦隔の漏出部位へカテーテルを誘導し,選択的に胸膜癒着を行ったところ排液が減少し,術後23日目に胸腔ドレーンを抜去した.今回,我々はリンパ管造影で漏出部位を特定し,選択的胸膜癒着で治癒した症例を経験した.乳糜胸の選択的胸膜癒着は,効果的な治療法と考えられた.
  • 神山 博彦, 牧野 有里香, 保母 貴宏, 野原 茂男, 杉山 祐之, 武井 雅彦, 三浦 弘善, 行方 浩二, 松本 文夫
    原稿種別: 症例報告
    2014 年47 巻11 号 p. 668-674
    発行日: 2014/11/01
    公開日: 2014/11/14
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     症例は72歳の女性で,67歳時に胸部下部食道癌に対して右開胸開腹食道亜全摘術3領域リンパ節郭清術・後縦隔挙上胃管再建を受けた.今回,閉塞性黄疸となったため精査したところ乳頭部癌の診断となった.本症例に対して右胃大網動静脈および右胃動静脈を温存した胃管温存の幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.術後経過は良好であった.食道癌術後で胃管による再建が行われていると,胃管の血行は右胃大網動脈が主なものであると考えられる.文献上は自験例も含めて本邦に16例の食道癌術後の膵頭十二指腸切除術の報告がある.ほとんどの症例で右胃大網動脈は温存されていた.右胃大網静脈は切離された症例もあった.食道癌術後の膵頭十二指腸切除術に際しては,手術による根治度と手術侵襲のバランスを考慮して,適切な術式を選択すべきである.今回,著者らは右胃大網動脈温存の胃管温存膵頭十二指腸切除術を経験した.
  • 伊藤 雅典, 河本 和幸, 安近 健太郎, 朴 泰範, 伊藤 雅
    原稿種別: 症例報告
    2014 年47 巻11 号 p. 675-682
    発行日: 2014/11/01
    公開日: 2014/11/14
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     症例は79歳の女性で,上腹部痛を認め前医で上部内視鏡検査を施行され,十二指腸乳頭部に腫瘍を指摘され治療目的に当院紹介となった.腹部CTでは腫瘍は指摘できなかったが,総肝動脈が上腸間膜動脈から分岐する肝腸間膜動脈幹の変異があり,総肝動脈は膵頭部実質内を走行していた.さらに,膵実質は体尾部欠損を認めた.内視鏡検査では十二指腸乳頭部から肛門側へ延びる腫瘍が確認され,生検にて乳頭部癌が確認された.膵全摘にて根治可能と判断し手術の方針とした.手術は膵頭部内の肝動脈を剥離し温存,また膵体尾部欠損していることで脾臓も温存することが可能であった.病理組織学的検査所見では中分化管状腺癌で,進行度はpT1,N0,M0,P0,stage I,R0であった.総肝動脈の走行には変異が多く,膵頭部領域の手術に際しては術前に根治性に加え,手術を安全に施行するために肝動脈の走行の把握や術後肝血流の温存を考慮する必要があると考えられた.
  • 源 寛二, 湯浅 一郎, 池田 敏夫
    原稿種別: 症例報告
    2014 年47 巻11 号 p. 683-689
    発行日: 2014/11/01
    公開日: 2014/11/14
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     先天的肝葉発達異常である肝葉形成不全はまれであり,胆道系疾患を伴いやすい.今回,我々は左葉形成不全肝の後区域に発症した原発性肝癌の1切除例について報告する.症例は65歳の男性で,慢性肝炎,肝硬変症はない.既往歴として1987年に胆石・胆囊炎で開腹胆摘術,2002年に総胆管結石にて開腹総胆管・十二指腸切開切石術を施行しているが,肝切除はない.現病歴は2011年7月の検診にて肝機能障害を指摘され,肝CTにて内外側区域完全欠損と肥大尾状葉,右葉後区域に7.5×5.0 cm大の古典的肝細胞癌を認めた.肝動静脈,門脈はいずれも左枝を認めず,肥大尾状葉に短肝静脈と門脈本幹より主要分枝2本を認めた.肝動脈化学リピオドール注入療法(chemo-lipiodolization)後に後区域切除を施行した.病理組織学的検査所見は中分化型混在高分化型優位の肝細胞癌で,中心部に変性壊死を認めた.肝左葉形成不全例での肝癌治癒切除報告例はなく非常にまれな症例と思われた.
  • 馬越 通信, 佐竹 昌也, 小林 芳生, 進藤 吉明, 齋藤 由理, 田中 雄一
    原稿種別: 症例報告
    2014 年47 巻11 号 p. 690-696
    発行日: 2014/11/01
    公開日: 2014/11/14
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     症例は62歳の女性で,胸部X線写真で左上肺野に異常陰影が指摘された.Sialyl LewisX(以下,SLXと略記)が150 U/mlと高値であり,肺癌が疑われ気管支鏡下生検で中~高分化腺癌が診断された.また,腹部CTでは肝外側区域に約7 cm大の壁在結節を伴う囊胞性病変を認めた.肺癌の治療を先行し左上葉切除術が施行された.根治切除できたが,術後,SLXが2,000 U/ml以上と急上昇した.PET-CTを施行したが異常集積を認めなかった.肝囊胞性病変に対して囊胞性肝腫瘍を疑い,肺切除術の3か月後に肝外側区域切除術を施行した.摘出した標本は一部に結節を伴う多房性囊胞性病変であり,囊胞液は粘液性であった.囊胞液中のSLXは2,000 U/ml以上と高値であった.病理組織学的検査で胆管内乳頭状腫瘍の診断を得た.術後約1か月後にSLXは40 U/mlと低下を認めた.SLXが高値を示した胆管内乳頭状腫瘍の1例を報告す‍る.
  • 青山 広希, 久留宮 康浩, 世古口 英, 小林 聡, 深見 保之, 大岩 孝
    原稿種別: 症例報告
    2014 年47 巻11 号 p. 697-703
    発行日: 2014/11/01
    公開日: 2014/11/14
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     症例は63歳の女性で,22年前に20 mmの膵頭部囊胞を指摘された.2年前に30 mm,1年前に37 mmと次第に増大が見られたが,内部結節など腫瘍性病変を疑う所見に乏しく,経過観察を行っていた.膵外傷や膵炎の既往はなく過剰な飲酒歴もない.今回,尿の濃染と皮膚掻痒感を主訴に当院を受診した.血液生化学検査では総ビリルビン2.2 mg/dlと軽度上昇し,肝胆道系酵素の異常を認めた.腹部CTとMRIでは膵頭部に50 mm大の囊胞と肝内胆管の拡張を認めたが,囊胞内部に充実成分は認めなかった.ERCPでは中下部胆管の圧排性狭窄と肝内胆管の拡張を認め,膵管にも圧排と尾側膵管の拡張を認めた.膵管と囊胞に交通は認めなかった.膵頭部囊胞とそれに伴う閉塞性黄疸に対して,亜全胃温存膵頭十二指腸切除を施行した.囊胞内部は漿液性の液体が見られた.病理組織学的検査所見は内面を異型のない単層立方上皮が被覆している真性囊胞であった.
  • 神谷 潤一郎, 杉浦 謙典, 登内 昭彦, 藤田 昌久, 中川 宏治
    原稿種別: 症例報告
    2014 年47 巻11 号 p. 704-710
    発行日: 2014/11/01
    公開日: 2014/11/14
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     症例は73歳女性で,検診にて膵腫瘍を指摘され当院受診となった.CTでは膵頭部に径25 mm大の不整形腫瘍を認め,総肝動脈,腹腔動脈に浸潤していたため,切除不能局所進行膵癌として化学療法(GEM+S-1)を行った.化学療法にて腫瘍は著明に縮小し,初診時より3年9か月後に手術目的に当科紹介となった.膵頭部は線維化により腫瘍の局在ははっきりせず,迅速病理組織学的診断にて剥離断端が陰性であることを確認し,膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織学的検査では膵頭部の多くは境界不明瞭な線維性変化を認めていたが,一部に軽度異型核を有する部位を認め,病理組織学的部分奏効であった.現在術後1年4か月経過しているが,無再発生存中であり,初回治療時より5年間の長期生存を獲得した.局所進行膵癌の予後は非常に不良であるが,化学療法が奏効し根治切除が可能となれば,長期予後が期待できる可能性が示唆された.
  • 竹林 克士, 園田 寛道, 谷 総一郎, 太田 裕之, 清水 智治, 目片 英治, 遠藤 善裕, 石田 光明, 谷 徹
    原稿種別: 症例報告
    2014 年47 巻11 号 p. 711-718
    発行日: 2014/11/01
    公開日: 2014/11/14
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     症例は29歳の男性で,腹痛,嘔吐を主訴に来院した.腹部造影CTにて骨盤腔内に14.8 cmの腫瘤性病変を認めた.また,小腸閉塞,右水腎症も認め,回腸,右尿管への浸潤が疑われた.後腹膜原発肉腫の術前診断で腫瘍摘出術,回盲部および右尿管合併切除,消化管再建,尿路再建を行った.腫瘍は15 cm大で,剥離断端を確保し摘出した.病理組織学的検査所見では,粘液腫状背景で,軽度腫大した核を持つ紡錘形細胞が増生していた.免疫染色検査では,vimentin陽性,CD34,desmin,SMA,S-100蛋白陰性であり,後腹膜原発low-grade fibromyxoid sarcoma(以下,LGFMSと略記)と診断した.術後経過は良好で,術後2年を経て再発を認めていない.LGFMSは組織学的に良性腫瘍との鑑別が困難な場合もあるが,高率に再発,転移を来す悪性腫瘍である.後腹膜原発は極めてまれであり,文献的考察を加え報告する.
  • 小林 弘典, 宮本 勝也, 中井 志郎, 藤本 三喜夫, 横山 雄二郎, 坂下 吉弘, 村尾 直樹, 平野 利典, 岡田 健司郎, 嶋本 文 ...
    原稿種別: 症例報告
    2014 年47 巻11 号 p. 719-725
    発行日: 2014/11/01
    公開日: 2014/11/14
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     症例は37歳の男性で,腹痛,嘔吐を主訴に受診した.腹部造影CTでイレウスと診断され入院したが,保存的治療で軽快した.開腹手術歴がないイレウスで,以前より腹痛を繰り返していたため,診断精査目的にて単孔式腹腔鏡下手術を行った.回腸末端より約40 cm口側の回腸から右内側臍ヒダにつながる索状物が見られ,これがイレウスの原因と考えられた.切除された索状物の術後病理組織学的検索で血管構造を認めたため卵黄血管遺残と診断した.本邦でのMeckel憩室を合併しない卵黄血管遺残症例の報告は極めてまれであり,腹腔鏡下手術での報告は本症例のみである.術前診断が困難なMeckel憩室を合併しない卵黄腸管遺残によるイレウスに対して腹腔鏡下手術が有用であったので若干の文献的考察を加え報告する.
  • 小西 啓夫, 岡村 寛子, 川合 寛治, 相良 幸彦
    原稿種別: 症例報告
    2014 年47 巻11 号 p. 726-733
    発行日: 2014/11/01
    公開日: 2014/11/14
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     症例は74歳女性で,両側乳癌術後に胸腰椎への骨転移再発を来したのでオキシコドンの内服による緩和療法を行っていたが,腰痛の増強,倦怠感を主訴に当院を受診した.癌性疼痛の増強を考え腹部CTを施行したところ,腹腔内遊離ガス像と腸管壁の気腫状変化を認めた.オキシコドンの影響で腹部所見が不明瞭であり消化管穿孔を否定できなかったので,診断も兼ねた開腹術を行った.手術所見では回腸に約10 cmにわたり腸管壁と腸間膜に気腫状変化を認めたが穿孔部は見られなかった.乳癌の小腸転移の可能性も考え回腸部分切除を施行したが,術後の病理組織学的診断にて腸管囊腫様気腫症と診断された.腸管囊腫様気腫症の報告例は近年増加しており診断や治療について一定の見解は示されつつあるが,当症例は緩和療法中に腹腔内遊離ガスを伴い発症したことで診断および治療方針の決定に苦慮したので若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 松本 晶子, 藤田 恒憲, 尾崎 貴洋, 大坪 出, 西村 透, 松本 拓, 松田 佳子, 藤原 英利, 和田 隆宏
    原稿種別: 症例報告
    2014 年47 巻11 号 p. 734-739
    発行日: 2014/11/01
    公開日: 2014/11/14
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     症例は64歳の女性で,直腸癌に対して腹腔鏡下直腸低位前方切除術を施行した.術後診断はtub2,pT2(MP),pN2(6/15),cH1,cP0,cM0,fStage IV,EGFR 陽性,K-RAS 変異株であった.第32病日よりXELOX+Bevacizumab(以下,Bevと略記)を開始した.開始9日目より下痢・嘔吐が頻回となり(grade 2),11日目よりカペシタビンの内服を中止としたが,39°Cの発熱と下痢・嘔吐の増悪(grade 3)ならびに重篤な白血球減少(grade 4),血小板減少(grade 4)を認めた.G-CSF投与,血小板輸血,抗生剤・抗真菌薬投与にて症状は改善に向かったが,その後も下痢と発熱が継続しサイトメガロウイルス(cytomegalovirus; CMV)腸炎ならびに薬剤性腸炎と診断した.全身状態の改善後に肝切除術,CPT-11+Bev投与を行ったが,腫瘍の進行により術後1年3か月後に永眠された.本症例は末梢血単核球dihydropyrimidine dehydrogenase(以下,DPDと略記)活性の低下を認め,DPD欠損症と診断した.本邦においてDPD欠損症は非常にまれであり,診断やスクリーニングの方法は確立されていない.フッ化ピリミジン系抗癌剤の投与により重篤な有害事象を招く危険があり,疑われた場合には速やかな対応が必要である.
特別寄稿
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