日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
原発性肝細胞癌と鑑別困難であった肝reactive lymphoid hyperplasiaの1切除例
池田 匡宏金子 哲也
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2015 年 48 巻 2 号 p. 85-93

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Abstract

症例は55歳の女性で,腹部USで肝腫瘍を指摘され当院へ紹介された.腹部CTでは早期層で辺縁優位に造影され,後期相で洗い出しされる径19 mm大の腫瘍を認めた.腹部血管造影では辺縁優位に濃染像を認めた.腫瘍マーカーは正常であったが,画像検査から肝細胞癌を疑い腫瘍が深部に存在し右肝静脈に接することより右肝切除を施行した.肝腫瘍は被膜の形成なく白色充実性で境界明瞭であった.病理組織学的検査所見で肝reactive lymphoid hyperplasia(以下,RLHと略記)と診断された.肝RLHは肝悪性腫瘍と診断され手術に至ることが多い.そのため造影早期に造影される肝腫瘍の鑑別疾患にRLHの存在を念頭に置くことで,確定診断に至らない場合,診断目的で針生検を検討する必要があると考えられた.

はじめに

Reactive lymphoid hyperplasia(以下,RLHと略記)は,組織学的に,リンパ濾胞が胚中心の反応性過形成を示し,個々のリンパ球の異型は少なくpolyclonalな増殖を認めるものと定義される1)2).近年,画像診断の進歩とともに肝RLH報告例が散見されるが,名称,原因,診断法,治療法など統一した見解がないのが現状である.今回,我々は原発性肝細胞癌と鑑別困難であった肝RLHを経験した.肝腫瘍の鑑別診断として示唆に富む症例であり文献的考察を加え報告する.

症例

患者:55歳,女性

主訴:特記事項なし.

既往歴:高血圧,糖尿病

家族歴:特記事項なし.

現病歴:近医にて胆囊結石経過観察中に肝腫瘤を指摘され,精査加療目的に2012年1月入院となった.

入院時身体所見:身長148 cm,体重56.5 kg.結膜に黄疸,貧血なし.表在リンパ節を触知せず.

腹部は平坦,軟で腫瘤は触知しなかった.

血液生化学検査所見:γ-GTP 177 IU/l,HbA1c 7.7%と上昇を認めた.肝炎ウイルスマーカーは陰性,腫瘍マーカー(CEA,CA19-9,AFP,PIVKA-II)は基準値内であった.Child-Pugh分類はgrade AでありICG15分値は4.0 %,ICG K値は0.214と正常であった.

腹部超音波検査所見:肝S7/8深部に19×19 mmの境界明瞭な低エコー腫瘤を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

Abdominal ultrasonography showed a hypoechoic lesion, 19×19 mm in diameter, in segment 7/8 of the liver.

腹部CT所見:腫瘍は単発で,単純CTでS7/8に18 mmの低吸収域を認め,動脈相で辺縁優位に造影され,門脈相・平衡相では洗い出しされた(Fig. 2).

Fig. 2 

Enhanced CT showed early enhancement and delayed washout at segment 7/8 of the liver (arrows) (A, B).

腹部MRI所見:腫瘍はT1強調画像では低信号,T2強調画像では高信号を示した.

腹部血管造影およびCT during helical arterioportography(以下,CTAPと略記)所見:腹部血管造影では,A7をfeederとする辺縁優位に造影される淡い腫瘍濃染を認め(Fig. 3),CTAPでは腫瘍部はperfusion defectを認めた(Fig. 4).

Fig. 3 

Hepatic angiogram showed a tumor stain at segment 7/8 of the liver.

Fig. 4 

Perfusion defect was identified by CT during arterial portography (arrow).

以上より,動脈血優位の比較的早い腫瘍内血流が認められ,確定診断には至らなかったが原発性肝細胞癌(以下,HCCと略記)を強く疑った.肝生検による播種を危惧したため生検は施行せず根治術である手術を選択した.肝機能は正常で腫瘍が深部に存在し右肝静脈と接すること,またvolumetryを行い右肝切除を施行した際の残肝容積は465 ml,残肝率は38.5%,残肝ICGKは0.077でありNaginoら3),前田ら4)が提唱する肝切除前肝予備能評面≥0.05を満たすため右肝切除を施行した.

手術所見:2012年1月手術を施行した.右上腹部J字切開,右第9肋間にて開胸開腹した.肝臓は正常肝の所見であった.術中超音波検査では肝S7/8深部に周囲肝よりhypoechoicに描出される直径23 mmの腫瘍を認めた.定型的に右肝切除術を施行した.出血量409 ml,無輸血であった.

切除標本肉眼所見:腫瘍は22×25×20 mm,被膜の形成なく白色充実性で境界明瞭であった(Fig. 5).

Fig. 5 

A cut section of the resected liver shows a well-circumscribed, whitish tumor in S7/8.

病理組織学的検査所見:腫瘤は組織学的には,主として門脈域を中心に結節性に増生するリンパ濾胞より形成されていた.HEではリンパ濾胞は,tingible body macrophageの見られる胚中心を有し,マントル帯も明瞭で二次濾胞と判断した.周辺のリンパ球にも異型は乏しかった.腫瘤周辺の門脈域にも,リンパ球の集蔟が見られた.反応性の変化と診断したが(Fig. 6),リンパ腫(特にfollicular lymphoma)の否定のため免疫染色検査を行った.

Fig. 6 

Histopathological findings of the tumor. Many lymphoid follicles with a germinal center were seen in the nodule.

免疫染色検査の結果は以下のごとくである.

胚中心は,CD79a陽性,CD20陽性,CD10陽性,bc12陰性で,follicular lymphomaは否定できた.濾胞周辺に浸潤するリンパ球は,CD20陽性,CD79a陽性のB-cellとCD3陽性のT-cellリンパ球が混在して見られ,T-cell優位であった(Fig. 7A, B).リンパ球に異型はなく,lymphoepithelial lesion(以下,LELと略記)は見られず,MALT type lymphomaは否定できた.CD5はCD3と同様の分布を示し,cyclinD1は陰性で,mantle cell lymphomaも否定した.周辺の門脈域の浸潤リンパ球は,B-cellとT-cellが混在して見られ,T-cell優位であった.

Fig. 7 

Immunohistochemical findings of the tumor. Lymphocytes within the nodule consist of B cell staining for CD20 (A) and T cell staining for CD3 (B).

以上の結果より,組織学的には,反応性のリンパ濾胞の集蔟と判断し,RLHと診断した.

術後経過に問題なく26病日に退院した.術後2年2か月の現在,元気に社会復帰している.

考察

RLHは一般に消化管5)~8),肺9)10),眼窩11),皮膚12)13)などの発生することが知られている.RLHは,組織学的には反応性の胚中心を伴ったリンパ濾胞を認め,リンパ球に異型がなくpolyclonalな反応性の増殖を認めるものと定義される.

医学中央雑誌,PubMedを用いた1983年から2012年までの期間で「RLH」,「肝臓」,「肝細胞癌」をキーワードとして会議録を除いて検索しえたかぎりでは,肝RLHは自験例を含め43例の報告例がある(Table 11)14)~48).特徴として中年以降の女性に多く(男性5例,女性38例),慢性肝炎,膠原病,悪性腫瘍との合併が指摘されているが関連性は明らかではない.併存疾患では糖尿病5例2)16)17)21),悪性疾患10例(胃癌4例15)20)31)44),大腸癌4例31)32)35)39),腎癌2例26)41)),自己免疫疾患10例(原発性胆汁うっ滞性肝硬変6例22)23)42)~44),Sjögren症候群2例22)25),抗リン脂質抗体症候群1例45),甲状腺炎3例24)38)45),CREST症候群1例23),慢性肝炎5例(HBV 2例1)45),HCV 3例20)43)48))などが報告されている.本症例は糖尿病および抗核抗体陽性であるが関連性は明らかでない.

Table 1  Case of reactive lymphoid hyperplasia of the liver in the literature and the present case
Case Author Year Age Sex Location Size (cm) Preoperative diagnosis Operation Association
1 Snover14) 1981 15 F Combined immunodeficiency
2 Grouls15) 1987 85 F Right lobe 1.4, 0.8 Metastatic liver tumor Gastric cancer
3 Isobe16) 1993 59 F Left lobe 0.9 Malignant tumor + DM
4 Katayanagi17) 1994 66 F Right lobe 1.5 HCC + DM
5 Ohtsu1) 1994 42 F S6 1.5 HCC + HBV
6 Endo18) 1996 38 F S7 1.7 Metastatic liver tumor +
7 Tanizawa19) 1996 67 F Left lobe 2 HCC +
8 Kim20) 1997 72 M S3 1.7 HCC + Gastric cancer, HCV
9 Nishijima21) 1998 58 F S7 1.5 CCC +
10 Sato22) 1999 41 F Right lobe 1.1 RLH PBC, Sjögren’s syndrome
11 Sharifi23) 1999 52 F Right lobe 0.4 + PBC, OLT
12 Sharifi23) 1999 56 F Left lobe 1.5 + CREST synd, OLT
13 Sharifi23) 1999 56 M +
14 Nagano24) 1999 47 F S7 1.7 HCC + Chronic thyroiditis
15 Okubo25) 2001 49 F Right lobe 2 HCC + Sjögren’s symdrome
16 Pantanowitz26) 2001 65 F Right lobe 1.7 Metastatic liver tumor + Renal cell carcinoma
17 Mori27) 2002 49 F S7/8 1.8 HCC +
18 Okuhama28) 2003 70 M S6 4.7 HCC +
19 Shiozawa29) 2004 51 F S3 1.5 HCC +
20 Ota30) 2006 63 F Right lobe 1.6 RLH
21 Sato31) 2006 75 F Right lobe 1.4 Metastatic liver tumor + Gastric cancer
22 Sato31) 2006 Left lobe 2
23 Takahashi32) 2006 77 F S3 1.5 Metastatic liver tumor + Colon cancer
24 Maehara33) 2006 72 F S3 1.3 CCC +
25 Willenbrock34) 2006 36 F S8 1.8 Open excisional biopsy
26 Takahashi35) 2007 64 F S2 1 HCC + Colon cancer
27 Matsumoto36) 2007 67 F S5 1.2 HCC PEIT
28 Miyamoto37) 2007 60 F S8 1.2 HCC,ML +
29 Machida38) 2007 53 F S4, 6, 7 0.8, 1.1, 1.3 HCC + Autoimmune thyroiditis
30 Lin39) 2008 44 F S1 1.5 Metastatic liver tumor + Colon cancer
31 Jiménez40) 2008 34 F S6 2.7 Benign tumor +
32 Park41) 2008 46 F S5 1 Metastatic liver tumor + Renal cell carcinoma
33 Okada42) 2009 68 F S6, 7 0.4, 1.0 HCC + PBC
34 Fukuo43) 2010 47 F S2, S7 0.5, 1.5 HCC + PBC
35 Ishida44) 2010 68 F S8 2 Malignant tumor + Gastric cancer, PBC
36 Zen45) 2010 63 F S7, S6 0.9, 0.5 + PBC, Chronic thyroiditis
37 Zen45) 2010 40 M S6 2 + HBV
38 Zen45) 2010 81 M S3 5.5 RLH
39 Zen45) 2010 64 F S5, S7 3.5, 1.0 RLH APS
40 Sibulesky46) 2010 37 F S7/8 1 + Donor
41 Hayashi47) 2011 59 F S3 1 HCC +
42 Yamazaki2) 2011 71 F S5 2 HCC + HCV, DM, ML
43 Suzuki48) 2012 65 F S4 1.5 HCC + HCV
44 Our case 55 F S7/8 1.8 HCC + DM

肝RLHは血液検査所見や画像所見に確定診断に至る特徴を認めず,悪性腫瘍との鑑別は困難であり手術に至ることが多い.画像検査における過去の報告として,腹部超音波検査では境界明瞭な低エコー腫瘤として描出,単純CTではlow density,造影CTでは早期相から造影され,後期相で洗い出しされる症例が多い.詳細なCT所見が記されていたのは21例で,辺縁優位に早期に造影されたのが5例(24%),早期に腫瘍全体が造影されたのが10例(47%),造影されなかったものが6例(28%)であった.単純MRIではT1強調像でlow intensity,T2強調像でhigh intensityを呈し,Gd-DTPAを用いた造影T1強調像では,早期相で造影され,後期相で洗い出しされる.Superparamagnetic iron oxide particlesやGd-EOB-DTPAを用いた造影MRIでは造影剤の取り込みが認められない29)30)45).血管造影下CTでは,CTAで腫瘍の濃染像を認め,CTAPではperfusion defectを呈する症例が多い.詳細な血管造影下CT所見が記されていたのは15例でCTAで辺縁優位に造影されたのが4例(27%),腫瘍全体が造影されたのが9例(60%),造影されなかったものが2例(13%)であった.また,FDG-PETで集積を認めた症例もあり39)47),肝悪性腫瘍と診断され手術に至ることが多い.31例に手術が施行され,術前診断はHCC 18例1)2)17)19)20)24)25)27)‍~29)​35)‍~38)42)43)47)48),胆管細胞癌2例19)33),転移性肝癌8例15)18)26)31)32)33)39)41),悪性リンパ腫1例37)であった.

確定診断に至る唯一の方法は肝生検であると考えられる.塩澤ら29)が報告するように,以前は採取される検体量が少なく組織情報量が十分でないこと,また標本採取,作成過程でリンパ球に挫滅が加わることが多く異型性を含め形態判断が困難になっている場合が多く,生検材料からの確定診断は困難と考えられてきたが,近年の生検機材の改良と技術の進歩により以前と比べかなりの量の肝組織を採取することが可能となり,RLHと診断できる十分な組織情報量が得られるようになった.

しかし,問題は悪性腫瘍を疑う場合には播種が危惧される点であり,適応は慎重に検討する必要があると考えられる.

病理組織学的に重要な鑑別診断としては,悪性リンパ腫があげられる.実際,本腫瘤は光顕で大小リンパ球の集族性増殖からなり,二次濾胞様の結節性集族性増殖を示す部分を介在し,核小体の目立つ大型異形単核細胞を混じており悪性リンパ腫が疑われた.

しかし,免疫染色検査としてCD79a,CD20,CD10,bcl-2,CD3,CD5,cyclinD1を追加することで前述のごとくそれらの染色パターンの相違によりfollicular lymphoma,MALT type lymphoma,mantle cell lymphomaは否定されRLHの確定診断に至った.多クローン性であること,増生しているリンパ球に異形が乏しい点もRLHを支持する所見であった.また,炎症性偽腫瘍も鑑別にあがるが線維芽細胞の介在を認める点で鑑別可能である.

RLHは良性疾患と考えられるが,現時点では画像診断で確定診断に至る方法がないため切除に至ることが多い.

本例における反省点としてHCCを想定した術式として右肝切除は過大であったと考えられる.肝癌診療ガイドライン49)に従い,腫瘍径も25 mmと小型であり,小範囲の系統的切除を選択すべきであった.

本疾患を肝腫瘍の鑑別疾患として念頭に置くことで,HCCの確定診断に至らない場合,肝腫瘍の診断目的で針生検を検討する必要があると考えられた.

利益相反:なし

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