日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
アミロイドーシスを併存し脾臓腫大を認めた悪性腹膜中皮腫の1例
古川 賢英脇山 茂樹堤 純高山 澄夫柴 浩明矢永 勝彦
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2015 年 48 巻 2 号 p. 152-157

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Abstract

症例は77歳の女性で,1年前より不明熱,炎症反応高値を指摘され精査していたが,その時点では単純CT上腹部に異常を認めなかった.今回,腹部単純CTにて,著明な脾腫を認めた.血清アミロイドA蛋白高値,上部消化管内視鏡による胃粘膜生検でアミロイドの沈着を認め,アミロイドーシスと診断した.腹部造影CTでは,脾辺縁に造影効果がなく,アミロイドの沈着およびそれに伴う脾破裂を疑い開腹手術を施行した.手術所見では,脾臓は白色充実性腫瘍により鎧状に覆われており,また,腸間膜を中心に播種を認めた.脾臓を含め腫瘍摘出術を施行した.病理組織学的検査所見は,脾臓を覆う腫瘍および腹膜播種巣は上皮型悪性腹膜中皮腫であり,脾臓はアミロイドの沈着はなく著明な萎縮を認めるのみであった.以上より,悪性腹膜中皮腫と診断した.今回,アミロイドーシスを併存し脾臓腫大を認めた悪性腹膜中皮腫の1例を経験したので報告する.

はじめに

悪性腹膜中皮腫は,全中皮腫の10%を占めるまれな悪性腫瘍であり,早期診断が困難な上,確立した治療法がない予後不良な疾患である1).今回,我々はアミロイドーシスを併存し脾臓腫大を認めた悪性腹膜中皮腫の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

症例

症例:77歳,女性

主訴:脾腫

家族歴:特記すべきことなし.

既往歴:高血圧,糖尿病.アスベスト粉塵の吸入歴なし.

現病歴:1年前より不明熱,炎症反応高値を指摘され,精査していたが,原因は不明であり,その時点では単純CT上腹部に異常を認めなかった.今回,腹部単純CT再検にて,著明な脾腫を疑われ,精査目的にて入院となった.

入院時現症:身長150 cm,体重56 kg,意識清明,体温35.4°C,血圧117/72 mmHg,脈拍64回/分,眼瞼結膜に貧血を認める,腹部は平坦で軟,左季肋部に軽度圧痛を認めるが,脾臓を触知しなかった.

入院時血液検査所見:WBC 14,700/μl,CRP 29.8 mg/dlと炎症所見を認め,Hb 8.4 g/dl,TP 5.9 g/dlと貧血,低蛋白血症を認めた.血小板は40.2×104/μlであった.また,血清アミロイドA蛋白は1,897.9 μg/mlと著明に上昇していた.

腹部CT所見:著明な脾腫を認め,脾辺縁に造影効果は認めなかった.明らかな腹水,側副血行路を認めなかった(Fig. 1).

Fig. 1 

CT reveals splenomegaly (A: arrow), and enhanced CT demonstrates a non-enhanced area around the spleen (B: arrow).

上部消化管内視鏡検査所見:静脈瘤を認めなかった.胃生検では,小血管壁とその周囲にアミロイド沈着を認めた.

以上より,アミロイドーシスと診断した.アミロイドの脾臓沈着による脾破裂は致死率が高く2),脾辺縁の非造影領域が血腫とも考えられ,著明な脾腫が脾破裂の可能性も否定できず,開腹手術を施行した.

手術所見:黄色腹水を認めた.脾臓は白色充実性腫瘍により鎧状に覆われており,横隔膜と一塊となっていた.また,腸間膜を中心に播種を認めた(Fig. 2).このため,脾臓を含め腫瘍摘出術を施行した(Fig. 3).重量は726 gであった.

Fig. 2 

Peritoneal dissemination was identified at laparotomy.

Fig. 3 

The spleen is atrophic (B: arrow), and covered by tumor tissue.

病理組織学的検査所見:肉眼的に,脾臓を鎧状に取り囲むように増生する桃白色充実性の腫瘍性病変を認め,脾実質は腫瘍により全周性に圧排され萎縮していた(Fig. 3).組織学的に,核小体が目立ち核内封入体を有する比較的均一な類円形核と好酸性胞体から成る異型細胞が,腺房状,乳頭状,および充実性に増生しており,免疫組織学的に,CAM5.2(+),calretinin(+),BerEP-4(–)であり,上皮型悪性中皮腫の所見であった(Fig. 4).また,脾臓は赤脾髄と白脾髄が保たれており,アミロイドの沈着を認めなかった.

Fig. 4 

Histopathological examination demonstrates epithelial malignant peritoneal mesothelioma. Atypical tumor cells formed a ductal structure and exhibited (a) a papillary growth pattern, and (b) CAM5.2-positive cells, and (c) calretinin-positive cells could be seen. (d) BerEP-4-negative cells are shown.

以上より,悪性腹膜中皮腫と診断した.当初,血腫と疑った脾辺縁の非造影領域は脾臓を鎧状に取り囲んだ悪性腹膜中皮腫であり,これによりCT上脾腫ありと判断した.

術後経過:離床,経口摂取開始し,術直後は経過良好であったが,徐々に腹水が出現し,全身状態不良となり,術後第34病日に腫瘍死した.

考察

悪性腹膜中皮腫は,やや男性に多く,60歳以上の高齢者に多く,アスベスト曝露との関連が報告されている3)4).臨床病型は腹水型,腫瘤形成型と,両者の特徴を併せ持つ混合型がある.腹水型では多量の腹水を認めるが,腹膜はびまん性に肥厚し小結節を伴うのみで腫瘤形成はほとんどない.腫瘤形成型では腹水はほとんど認めず腫瘤形成が主体で,疼痛が強く早期にイレウスを来しやすい.病期が進行すると,癌性腹膜炎となる.また,組織学的には上皮型,肉腫型,二相型に分類される1).本症例は,アスベスト曝露歴はなく,術中所見を考えると臨床病型は混合型にあたる上皮型悪性腹膜中皮腫と考えられる.

診断では,腹水型における腹水細胞診は,正診率が低率なため確定診断は困難である3)4).また,CTでは腹水貯留の他,大網,腸間膜の肥厚が認められ,腫瘤形成型では充実性腫瘤像や周囲臓器への直接浸潤像が認められる5).しかし,本症例のようにCTで脾腫を疑われた悪性腹膜中皮腫という例は,1950年から2014年3月までのPubMedで「peritoneal mesothelioma」と「spleen」をキーワードとして検索した結果,1例を認めるのみであった6).悪性腹膜中皮腫では,胸膜中皮腫と異なり腫瘤を形成することがあり,初めは播種状の小結節が多発するが,次第に腫瘤を形成するとされる7).本症例においても,まずは小結節播種で発症したが,単純腹部CTでは異常を認めず,その後脾臓周囲に限局した腫瘤を形成し診断に至ったと考えられる.また,確定診断は組織生検により,腺癌や肉腫との鑑別には免疫組織学的検索を要する8).腺癌に比べて中皮腫で陽性率が高いマーカーとしてcalretinin,cytokeratin 5/6,mesothelinなどが,悪性中皮腫が陰性で腺癌に陽性率の高いマーカーとしてCEA,MOC-31,Ber-EP4などがある.また,肉腫との鑑別にはAE1/AE3やCAM5.2が有用とされている7).本症例では,calretinin,CAM5.2が陽性であり,BerEP-4が陰性であったことから悪性中皮腫と診断した.

悪性腹膜中皮腫に対する有効な治療法は確立されておらず,平均生存期間は12.5か月との報告があり予後不良であるが9),近年ではcytoreductionを目的とした外科治療と腹腔内化学療法の併用の有用性を示した報告もある10).また,本症例のような遠隔転移のある悪性腹膜中皮腫においても外科的なcyotoreductionが生存期間を延長させると報告されている11).本症例は,発症を不明熱と炎症反応高値とすると,結果的にcytoreductionを施行し,生存期間は13か月であった.

アミロイドーシスは,全身諸臓器の間質に異常蛋白であるアミロイド蛋白が沈着し,機能障害をじゃっ起する疾患であり,その病型は原発性,続発性,家族性など6種類に分類される12).本症例は,アミロイド蛋白のタイピングを行ってはいないが,血清アミロイドA蛋白高値であり,続発性アミロイドーシスと考えられる.続発性アミロイドーシスは全身性アミロイドーシスのうちの反応性アミロイドーシスに分類され,その基礎疾患としては慢性関節リウマチ(以下,RAと略記),呼吸不全,腎不全などの慢性消耗性疾患や悪性腫瘍などがあるが,60%はRAであると報告されている13).悪性腫瘍では,骨髄腫やホジキンリンパ腫などの血液疾患が多く,悪性中皮腫に合併したアミロイドーシスは,1950年から2014年3月までのPubMedで「mesothelioma」と「amyloidosis」をキーワードとして検索した結果,1例のみ認めた14).本症例は,慢性消耗性疾患や他の悪性腫瘍を認めず,悪性腹膜中皮腫に続発したアミロイドーシスと考えられる.続発性アミロイドーシスは発熱や炎症反応高値を呈するが,これはRAに続発することが多く,リウマチ性炎症によると考えられている15).しかし,本症例ではRAを合併しておらず,発熱と炎症反応高値がアミロイドーシスによるか,悪性腹膜中皮腫による症状なのかは不明である.

悪性腹膜中皮腫は症例数が少ないため,依然不明な点が多く,今後の診断法と標準治療法の確立を要する.また,さまざまな臨床像を呈することがありうることを念頭におくことが重要と考えられた.

利益相反:なし

文献
 

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