日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
長期経過観察の後に診断された細胆管細胞癌の1切除例
海津 貴史金田 悟郎金澤 秀紀細谷 智坂本 友見子石井 健一郎瀧川 政和堀田 綾子齋藤 生朗渡邊 昌彦
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2015 年 48 巻 3 号 p. 224-233

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Abstract

症例は74歳の女性で,盲腸癌に対する腹腔鏡下回盲部切除後7か月目のCTで,肝S2に径3.8 cmの腫瘤を指摘されたが肝炎症性偽腫瘍の診断で経過観察となった.術後3年3か月目には腫瘍径が6.4 cmまで増大し,術後に正常化したCA19-9が170 U/mlと上昇したため,肝転移を疑い術前化学療法としてFOLFOX+パニツムマブを3回施行した.腫瘍径は5.5 cmに縮小しCA19-9は55 U/mlまで低下したが,有害事象およびCVポート感染による敗血症を併発したため化学療法は中止とし,拡大肝左葉切除術を行った.病理組織学的診断は細胆管細胞癌であり,肝切除後2年8か月無再発生存中である.細胆管細胞癌の長期経過を観察し,術前化学療法を施行した症例は極めてまれである.細胆管細胞癌の診断や生物学的特性を考えるうえで貴重な症例と考え報告する.

はじめに

細胆管細胞癌(cholangiolocellular carcinoma;以下,CoCCと略記)は原発性肝癌の0.56~1%とまれな疾患である1)2).以前は胆管細胞癌(cholangiocellular carcinoma;以下,CCCと略記)の一亜型として分類されていたが,原発性肝癌取扱い規約第5版(2008年2月)から独立した疾患概念となり,最近報告例が散見されるようになった.しかし,CoCCの臨床像はいまだ不明な点が多く,本症例のように長期間経過観察された例は希少であり,本疾患の特徴を知るうえで貴重な症例と考え報告する.

症例

患者:74歳,女性

主訴:なし.

既往歴:高血圧,糖尿病(HbA1c 7.0%)にて内服治療中.

家族歴:特記すべきことなし.

生活歴:飲酒歴,喫煙歴はなし.

現病歴:盲腸癌の診断で2008年2月に腹腔鏡下回盲部切除を施行した.病理組織学的検査結果はtype 3,32×20 mm,tub2,pSi(retroperitoneum),ly2,v2,pN0でfStage IIであった.術前の採血でCA19-9が254 U/ml(基準値0~37)と上昇していたが,術後は基準値内まで低下した.術後7か月の造影CTで,肝S2に径3.8 cmの腫瘤をはじめて指摘された.その腫瘤は盲腸癌の術前のCTでも認められたが,術前には見逃されていた.肝腫瘤はダイナミック造影MRIで早期に濃染し,平衡相でも造影効果が遷延したため線維成分の多い腫瘍と考えられ,さらに,術前のCTと比較して大きさに変化がなく,腫瘍マーカーの上昇も認めなかったため炎症性偽腫瘍と診断し経過観察する方針とした.術後3年目までは盲腸癌の転移検索のため平衡相の一相のみの胸腹部造影CTを半年ごとに行っていたが,造影CTでの肝腫瘍の輪郭が不明瞭であり,腫瘍の増大傾向を有意な所見として認識していなかった.術後3年3か月目にCA19-9が170 U/mlまで上昇し,GD-EOB-MRIで肝腫瘍は径6.4 cmにまで増大していた.FDG-PETで肝腫瘍は異常集積を示し,盲腸癌の肝転移の可能性も否定できず手術の方針とした.腫瘍は左肝静脈を取り囲むように存在し,中肝静脈の左半周に接していたため拡大肝左葉切除による根治術が可能であったが,肝切除範囲の縮小を期待して術前化学療法を導入した.レジメンはfolinic acid,fluorouracil,oxaliplatin(以下,FOLFOXと略記)を選択し,既往の盲腸癌組織にEGFR(epidermal growth factor receptor:上皮細胞増殖因子受容体)発現を認め,K-ras遺伝子が野生型であったため,2回目の化学療法からはパニツムマブを併用した.Grade 1–2(CTCAE v4.0)の手足症候群,口内炎,下痢,食欲低下を認め,3回目の化学療法施行後にはCVポート感染による敗血症のため入院加療を要した.患者の希望もあり4回目以降の化学療法は中止とし,肝予備能の評価を行ったところICG R15が23%と上昇していた.血液検査上,トランスアミラーゼの上昇や血小板低下などは認めず,類洞閉塞症候群を示唆するCT上の脾容積の増大も認められなかった.3か月間の休薬でICG R15は11%に改善したため,拡大肝左葉切除術の目的で当科入院となった.

入院時現症:身長154.5 cm,体重60 kg,血圧124/64 mmHg,脈拍68回/分,体温36.2°C.身体所見上,異常所見を認めなかった.

血液検査所見:血液生化学上,異常所見は認めなかった.ICG R15は11%,Liver damage Aであった.腫瘍マーカーはCA19-9が196 U/mlと高値を示したが,CEA,AFP,PIVKA-IIは正常であった.肝炎ウイルスマーカーはB型,C型ともに陰性であった.

腹部超音波検査所見:肝S2に境界不明瞭な低エコー腫瘍を認めた.

腹部CT所見:盲腸癌術後7か月の腹部CTで,単純にて肝S2に径3.8 cmの低吸収な腫瘍を認めた(Fig. 1a).背景肝は全体的に低吸収で脂肪肝を伴っていた.造影で腫瘍は高吸収を呈したが腫瘍の中央は低吸収であった(Fig. 1b).左肝静脈は形態を保ちながら腫瘍内を貫通しており,別のスライスではP2門脈枝が腫瘍内を貫通していた(Fig. 1c).経時的に画像を比較すると,単純CTで低吸収な腫瘍は徐々に増大していた(Fig. 2a~e).造影CTでは,術後12か月までは腫瘍辺縁を中心とした比較的強い造影効果を示していた(Fig. 2f, g).術後25か月以降は造影効果が減弱し不均一となっており,背景肝のS2領域全体が血流分布異常のため高吸収を呈していたこともあり,腫瘍の輪郭は非常に不明瞭であった(Fig. 2h~j).

Fig. 1 

CT 7 months after the first operation. Plain CT showed a low density tumor (arrowheads) measuring 3.8 cm in hepatic segment II (a). The tumor showed marked enhancement with a central low density area, and the left hepatic vein (arrow) penetrates the tumor without obstruction (b). On another slice of enhanced CT, a portal branch (arrow) in hepatic segment 2 also penetrated the tumor (c).

Fig. 2 

Time course of CT. Plain CT showed an increase in the size of low density tumor (arrowheads: a–e). In enhanced CT, the tumor showed marked peripheral enhancement until 12 months postoperatively, and thereafter, the enhancement became weaker and heterogeneous (f–j). After 25 months postoperatively, the hepatic segment II showed stronger enhancement than the surrounding hepatic area, which made it difficult to recognize the tumor region (h–j).

腹部GD-EOB-MRI所見: 術後1年の腹部MRIで,腫瘍はT1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号を示し,造影早期相で腫瘍辺縁が高信号,腫瘍中央は淡い高信号を呈した(Fig. 3a).門脈相,平衡相においては腫瘍全体が淡い高信号を示し造影効果が持続していた(Fig. 3b, c).肝細胞相ではEOBの取り込み低下を認め,腫瘍の大きさは4.1 cmだった(Fig. 3d).術後3年9か月の腹部MRIでは,肝細胞相でのEOB取り込み低下の範囲は6.8 cmに増大しており,中肝静脈の根部付近は左半周が腫瘍と接していた(Fig. 3e).

Fig. 3 

Gd-EOB-DTPA MRI. After 12 months postoperative, the tumor (arrowhead) showed marked enhancement in the peripheral area of the tumor in the arterial phase (a). In the portal and equilibrium phase, a weak enhancement remained in the tumor (b, c). In the hepatobiliary phase, the tumor measuring 4.1 cm in diameter showed low intensity (d). After 45 months postoperatively, the low intensity tumor increased to 6.8 cm in diameter, and the root of the MHV was invaded by the tumor in the hepatobiliary phase (e). Abbreviations are: MHV, middle hepatic vein; POM, postoperative month.

腫瘍径とCA19-9の経時的変化:腹部CTもしくは腹部MRIで計測した腫瘍の最大径と血中CA19-9値の経時的変化をグラフに示した(Fig. 4).腫瘍径の変化は,盲腸癌の術後7か月目までその大きさは3.8 cmと増大がなかった.その後は1年に約1 cmのペースで徐々に増大し,3年3か月後には径6.4 cmにまで増大した.しかし,FOLFOXを2週間毎に3回(その内2回はパニツムマブを併用)施行した後のCTでは,腫瘍径は5.5 cmに縮小した(RECISTの効果判定はSD).化学療法を中止したところ腫瘍径は6.8 cmに増大した.血中CA19-9値の推移については,盲腸癌の術前に254 U/mlと上昇していたが,術後は基準値内まで低下した.しかし,術後2年10か月から上昇し始め,術後3年4か月には177 U/mlまで上昇した.化学療法施行後に血中CA19-9値は55 U/mlまで低下したが,化学療法を中止したところ再上昇し,肝切除直前には196 U/mlまで上昇した.肝切除により腫瘍摘出後は基準値内まで低下した.

Fig. 4 

Time course of tumor size and serum CA19-9 levels. The tumor size, which was measured by CT or MRI, did not increase during the first 7 months after laparoscopic ileocecal resection for the cecal cancer (first operation). Thereafter, the tumor-size slowly increased by about 1 cm per year. Three cycles of the combination chemotherapy, FOLFOX, with or without Panitumumab, decreased the size of tumor from 6.4 cm to 5.5 cm. Serum CA19-9 level decreased from 254 U/ml to a normal level immediately after the first operation and began to increase 2 years and 10 months after the first operation. FOLFOX (with or without Panitumumab) decreased the serum CA19-9 level from 177 U/ml to 55 U/ml, however the CA19-9 level started rising soon after halting chemotherapy and returned to a normal level after extended left hepatectomy (second operation). N.B.: FOLFOX, a regimen of folic acid, fluorouracil, and oxaliplatin; Pani, Panitumumab; first operation, laparoscopic ileocecal resection; second operation, extended left hepatectomy.

術前診断:転移性肝癌を疑った.

手術所見:盲腸癌の術後3年10か月目に手術を施行した.腫瘍は肝表面に露出し,術中超音波検査にて左肝静脈根部の全周を取り囲み中肝静脈にも浸潤していたが,横隔膜や下大静脈への浸潤は認めず,拡大肝左葉切除術を施行した.リンパ節郭清は施行しなかった.

切除標本肉眼所見:ホルマリン固定前の標本で,肝S2表面に露出する白色の硬い腫瘍を認め,AとBの位置で割を入れた(Fig. 5a).ホルマリン固定3時間後の標本で,腫瘍は最大径が6.8 cmで,被膜を伴わない境界明瞭な充実性の腫瘍であった(Fig. 5b).腫瘍は左肝静脈の全周を取り囲み,割面Bでその内腔はほとんど閉塞していた.中・左肝静脈の共通幹近傍で,中肝静脈は左半周が腫瘍と接していた(Fig. 5b,割面A).B2胆管枝の内腔は腫瘍栓で充満し著しく拡張しており(Fig. 5b,割面B),その末梢側胆管は拡張していた(Fig. 5b,割面A).

Fig. 5 

Macroscopic findings. (a) Resected specimen of the left liver before fixation. The whitish tumor in segment II extended beyond the falciform ligament to the segment IV. Common trunk of the MHV and LHV was free from tumor invasion. (b) Resected specimen was fixed in 10% formalin for 3 hrs and sectioned at lines A and B shown in Fig. 4a. The tumor, measuring 6.8 cm in diameter, is solid, not encapsulated and invaded into the bile duct with dilatation of peripheral bile ducts in segment II. Section A showed the tumor abutment of MHV involving 180° of the vein circumference. LHV was surrounded and almost occluded by the tumor in Section B. Abbreviations are: MHV, middle hepatic vein; LHV, left hepatic vein.

病理組織学的検査所見:小型の異型腺管が豊富な線維性間質を伴って増殖し,腫瘍辺縁部では,癌細胞が既存の肝細胞索と連続していた(Fig. 6a, b).腫瘍は細い管腔を形成する高分化な成分が大部分を占めていた.病変内の左肝内胆管B2は内腔に腫瘍栓を伴い,左肝静脈は癌に圧排され著明に狭窄していたが静脈壁への癌細胞浸潤は中・左肝静脈ともに認めなかった.術前化学療法の効果と考えられる変性・壊死は認めなかった.背景の非癌部肝組織は全体に類洞の拡張が目立ち,肝細胞の一部には脂肪変性を伴っていた.新犬山分類のF0,A2に相当した.

Fig. 6 

Histopathological findings. In HE staining, small ductules similar to cholangioles proliferate in an anastomosing pattern and compose a moniliform structure with abundant fibrous stroma (a). There is no HCC-like or CCC-like area in the tumor. The tumor cells proliferated and replaced the surrounding normal hepatocytes (b). In immuno­histochemical staining, CK-7 (d), CK-19 (e) and NCAM (f) are expressed in the cytoplasm of the tumor cells. EMA stain shows localized positivity on the apical surface of the tubules (c). A square surrounded with black line is high magnification. Abbreviations are: HE, hematoxylin-eosin; NH, normal hepatocytes; CK, cytokeratin; EMA, epithelial membrane antigen; NCAM, neural cell adhesion molecule.

免疫染色検査はCK7,CK19,CA19-9が陽性であり,CK20,AFP,c-kitは陰性であった(Fig. 6d, e).Epitherial membrane antigen(以下,EMAと略記)は腺腔の内腔面が強く陽性を示し(Fig. 6c),neural cell adhesion molecule(以下,NCAMと略記)も陽性であった(Fig. 6f).

以上から細胆管細胞癌と診断した.原発性肝癌取扱い規約第5版に準じるとH2,St-LM,6.8 cm,eg,fc(–),sf(–),s1,n0,vp1,vv1,va0,b2,sm(–),ch(F0,A2)で,進行度分類はStage IIIであった.

術後経過:経過良好で術後14日目に退院した.術後補助化学療法は行わず,肝切除後2年8か月が経過し無再発生存中である.

考察

CoCCは1959年にSteinerら1)によって初めて報告された疾患概念であり,肝臓のHering管または細胆管由来の癌と考えられている.細胆管細胞は,肝細胞索と小胆管の移行部であるHering管に存在する細胞であり,肝幹細胞として肝細胞,胆管細胞両者に分化することが示されており3),CoCCはこの肝幹細胞を起源とする癌であると推測されている4)

CoCCの病理組織学的検査所見の典型像は,「異型に乏しい小型,類円型の腫瘍細胞が,豊富な線維性間質を伴って小管腔構造を呈し,それらが互いに不規則に吻合するように増殖し,増殖先端部では腫瘍細胞が肝細胞索と連続する」とされており5),本症例の組織所見と一致した.CoCCはHCCやCCCと類似した組織像が混在することも多く4),その場合,混合型肝癌やCCCとの鑑別が問題となる.本症例は,肝細胞索類似の充実性索構造などのHCC様組織像は認めず,粘液産生を伴った広い腺腔などのCCC類似の組織像も認めなかったため,高分化型のCoCCと考えられた6)

CoCCの免疫組織学的な特徴は,胆管細胞のマーカーであるCK7,CK19が陽性となること,そしてEMA染色でCCCは腺腔構成細胞の胞体が全体的に染まるのに対し,CoCCでは腺腔の内腔面が染まることが重要である6).その他,CCCではあまり見られないNCAMやc-kit の発現が,CoCCでは多く認められるとする報告もある4).本症例では,c-kitは陰性であったが,CK7,CK19,EMA,NCAMは陽性で,EMAの染色性も内腔面が強陽性を示しており,免疫組織学的にもCoCCとして矛盾しない結果であった.

CoCCの画像所見は,超音波にて低エコー結節として描出され,ダイナミックCTもしくはMRIでは,動脈相で全体が濃染し,遅延相で等吸収またはわずかに低吸収になるパターンと,動脈相で辺縁が濃染し,遅延相で濃染が中心部に広がるパターンがある7).腫瘍辺縁の充実増生部では,間質内の小血管が発達して多血性になっていることが多いため造影効果が強い.一方,腫瘍中心部は,腫瘍の増大に伴い癌細胞が変性,委縮,脱落して線維性間質が増えるため,造影効果が遷延すると考えられている.本症例もMRIのdynamic studyで,腫瘍の辺縁が良く染まり,平衡相でも造影効果の遷延が認められた.

門脈分枝が腫瘍内部を貫通する所見もCoCCによく見られる画像所見である8).これはCoCCの腫瘍細胞が,発育先端部で隣接する肝細胞を置換しながら増殖するためであり,大型のCoCCでも門脈枝が腫瘍内を貫通することが報告されている9)10).本症例も盲腸癌の術後1年目までの造影CTやMRIでは,腫瘍内を左肝静脈やP2門脈分枝が閉塞することなく貫通していた.しかし,観察開始から1年6か月以降の造影CT,MRIでは,腫瘍により左肝静脈やP2門脈枝が閉塞していた.そのため腫瘍や腫瘍周囲の血流分布が変化し,造影CTでの腫瘍の輪郭が極めて不明瞭になっていた.伊澤ら11)が報告した10 mm大のCoCCは,最初はダイナミックCTの動脈相で濃染し平衡相まで造影効果が持続したが,約1年後には平衡相での造影効果が消失した.すなわち,CoCCはその増殖の経過中に画像所見が変化することがあり,常に典型像を示すわけではない点に注意が必要である.

医学中央雑誌で1983年から2014年4月の期間で「細胆管細胞癌」,PubMedで1950年から2014年4月の期間で「cholangiolocellular carcinoma」をキーワードとして検索したところ,病理組織学的にCoCCと診断され,臨床経過の記載があるものは46例(会議録を除く)であり,そのうちCoCC の原発巣が6か月以上経過観察されたものは7例であった(Table 111)~17).肝血管腫,A-P shunt,腺腫様過形成(dysplastic nodule)と考えられていたものがそれぞれ3例,1例,1例であった(2例は記載なし).観察期間は6~48か月,最終腫瘍径は11~60 mm,腫瘍の月平均増大速度{(最終腫瘍径-観察初期腫瘍径)÷観察期間}は0.0~2.7 mm/月であった.なかでも古賀ら15)の症例は,径12 mmの肝腫瘍を肝血管腫と診断して,半年毎に造影CTを行いながら4年間経過観察したが,最初の3年間は大きさ,性状ともに変化がなかった.Joshitaら12)の症例も,径10 mmの肝腫瘍を腹部エコーで3年間経過観察しており,2年7か月後に増大し始めたと報告している.また,Laiら17)の症例は,原発性硬化性胆管炎の少年に認められた径11 mmの肝腫瘍が,2年後にEOB細胞相の信号変化を示すも大きさは変わっていなかった.本症例も,観察初期の7か月間は大きさ,性状ともに変化がなく,その後は1年に約1 cmずつという極めて緩徐な増大を示した.CoCCの報告例のほとんどが,発見時に悪性腫瘍が否定できず手術が行われているため長期間経過観察される症例は少ないが,本症例を含めた長期観察症例の臨床経過から推測すると,CoCCは比較的緩徐な発育を示すと考えられた.予後に関しては,CoCCの報告46例中,死亡の転機の記載が7例しかなく18)~24),また,治癒切除後の5年生存率は,腫瘤形成型肝内胆管癌の33%に対してCoCCは75%であったと報告されており25),CCCに比べて良好な予後が期待できる.

Table 1  Reported cases of CoCC observed for more than 6 months before final diagnosis
Case No. Author Year Age/S‍ex Virus Initial tumor size (mm) Final tumor size (mm) Observation period (month) Initial diagnosis Treatment Prognosis (month)
1 Izawa11) 2008 69/F HCV 10 13 12 hemangioma right hemihepatectomy n.d.
2 Joshita12) 2009 76/M HCV 10 28 36 n.d. right anterior sectionectomy n.d.
3 Hashizume13) 2009 87/M NBNC 15 30 8 hemangioma S6 partial resection alive (12)
4 Hatanaka14) 2010 59/M HCV 15 30 6 A-P shunt right anterior sectionectomy alive (50)
5 Koga15) 2012 69/M HBV 12 41 48 hemangioma S5/6 partial resection n.d.
6 Yokosuka16) 2012 79/M HCV 20 60 36 n.d. TACE* alive (24)
7 Lai17) 2012 15/M NBNC 11 11 24 dysplastic nodule S5 partial resection alive (6)
8 Our case 74/F NBNC 38 68 46 IPT extended left hemihepatectomy alive (32)

*The liver tumor was histologically diagnosed as CoCC after CT-guided biopsy. Abbreviations are: CoCC, cholangiolocellular carcinoma; n.d., not described; NBNC, non-B non-C; A-P shunt, arterial-portal shunt; TACE, transcatheter arterial chemoembolization; IPT, inflammatory pseudotumor.

CoCCの原発巣に対して術前に化学療法を施行した報告例は,検索しえた範囲内では2例認めた.中山ら26)は,右肝静脈・中肝静脈根部への浸潤を伴う径8 cmのCoCCに対してgemcitabine(以下,GEMと略記)+cisplatin併用による肝動注化学療法を行い,腫瘍径が6 cmまで縮小し右肝静脈浸潤が消失したため,肝中央2区域切除を施行した.治療効果と思われる変性・壊死領域が腫瘍全体の50%を占めていたと報告している.革島ら27)は,下大静脈と右副腎への浸潤が疑われた径7 cmのCoCCに対して,GEM単独による全身化学療法後に肝右葉・尾状葉切除,下大静脈・右副腎合併切除した症例を報告し,画像上の治療効果はSD(安定)であったが,組織学的には約20%の腫瘍壊死効果が認められていた.本症例でも,FOLFOXとパニツムマブを投与したところ,SDとはいえ腫瘍サイズの縮小や血中CA19-9の低下が見られており,FOLFOX+パニツムマブ併用療法が奏効したと考えられた.CoCCの治療は遠隔転移がなければ手術が第一選択であるが,耐術能の低い場合や局所進行例は,動注化学療法や全身化学療法も選択肢の一つになりえる可能性が示唆された.ただし,本症例の場合,術前に行った化学療法が肝予備能の低下,さらには手術時期を遅らせる結果を招いており,その適応は慎重に判断すべきである.

以上より,CoCCは,極めて緩徐に発育し数か月単位では画像的に増大しないことがあり,また,経過中に画像所見が変化して典型像を示さない場合があること,さらに全身化学療法が奏効する可能性が示された.造影早期に比較的よく染まる肝腫瘤では,CoCCの可能性を念頭に置いて診断,治療にあたることが重要であろう.また,CoCCは局所進行例であっても化学療法が奏効し,R0手術が可能なら良好な予後が期待できると考えられた.

利益相反:なし

文献
 

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