日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
イレウスにより発症した小腸calcifying fibrous tumorの1例
南 貴人西平 友彦三木 明寛森岡 広嗣鈴木 貴久大谷 剛北村 好史吉谷 新一郎石川 順英荻野 哲朗
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2015 年 48 巻 5 号 p. 436-441

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Abstract

極めてまれな小腸calcifying fibrous tumor(以下,CFTと略記)によるイレウスの1手術例を経験したので報告する.症例は69歳の男性で,腹痛を主訴に受診した.腹部超音波検査や腹部CTで小腸に石灰化を伴う径約1 cmの結節を認め,前後で小腸が屈曲しcaliber changeを認めた.イレウスの診断でイレウス管を挿入したが改善せず手術を施行した.術中所見ではイレウス管の先端付近で小腸が屈曲して閉塞機転となっており,屈曲部分を含む小腸部分切除術を施行した.病理組織学的検査所見では屈曲部位の小腸筋層内に石灰化を伴う辺縁平滑な径1 cmの硝子化結節を認めた.免疫組織化学的には,結節内のごく少数の紡錘形細胞にvimentin,CD34との陽性反応を認めた.α-SMA,desmin,S100,CD117,ALKとの有意な陽性像は認めずCFTと診断した.

はじめに

Calcifying fibrous(pseudo)tumor(以下,CFTと略記)はまれな良性腫瘍である.一般的には軟部組織原発のものが多く報告されており,その他に胸膜,腹膜,縦隔,肺,副腎,傍精巣,精索などさまざまな臓器を原発としたものも報告されている1)が,消化管などに発生した症例はまれである.今回,我々は小腸原発のCFTによるイレウスの1例を経験した.小腸に発生したCFTの症例報告はまれであり,またイレウスを誘発したと考えられることから臨床的意義の高い症例と考えられたため,文献的考察を加えて報告する.

症例

症例:69歳,男性

主訴:腹痛

既往歴:虫垂炎(手術施行),気管支喘息

生活歴:飲酒,まれに少量のみ.喫煙,20本×47年,3年前から禁煙.

現病歴:朝から臍周囲の痛みや気分不良を認め近医を受診した.イレウスの診断で同日当院消化器内科に紹介・入院となった.数か月前から4週間に1度程度下腹部に痛みを感じることがあったが自然軽快していたとのことであった.消化器内科でイレウス管が挿入されたが,その際の消化管造影検査では明らかな腫瘍性病変は認めなかった.内科的治療のみで改善する可能性が低いと判断され,翌日当科紹介となった.

入院時現症:体温36.6°C,腹部は膨満・軟で,腹膜刺激症状を認めず.

入院時血液検査所見:白血球の上昇(11,300/μl)以外に特記すべき異常所見を認めず.

腹部超音波検査所見:小腸に後方エコー減弱を伴う径約1 cmの結節を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

Abdominal US shows a hyperechoic nodule with an acoustic shadow in the small intestine.

腹部CT所見:小腸に均一な石灰化を伴う径約1 cmの結節を認め,その前後で小腸が屈曲しcaliber changeが認められた(Fig. 2).

Fig. 2 

Enhanced abdominal CT shows a nodule with homogeneous calcification in the small intestine (arrow). The small intestine was bent in a sharp U-shape at the site of the nodule. The caliber of the small intestine changed at the bend.

以上より,小腸に存在する結節を閉塞機転としたイレウスと考えられたが,画像所見上もイレウス管治療のみで改善する可能性は低いと考えられ,当科紹介日に緊急手術を施行した.開腹所見では約280 cm挿入したイレウス管の先端付近で小腸の漿膜どうしが強く癒着し屈曲して閉塞機転となっていた(Fig. 3).小腸の癒着剥離のみでのイレウス解除は困難と判断し,屈曲部分から両側にmarginを確保して小腸部分切除術を施行した.

Fig. 3 

Intraoperative findings: the oral and anal sides of the small intestine adhered to each other (arrows), causing bowel obstruction.

切除標本所見:肉眼像で小腸屈曲部位の筋層内に辺縁平滑で白色調の最大径約10 mmの結節を認めた.粘膜面には明らかな異常所見は認めなかった(Fig. 4a).その近傍で小腸は一部で背中合わせ状になり,漿膜に線維性癒着を認めた(Fig. 4b).

Fig. 4 

(a) Macroscopic view: the smooth-marginated white nodule in the muscular layer (arrow). No remarkable findings of the mucosa. (b) Cut surface: the specimen was curved in a sharp U-shape due to serosal adhesion.

病理組織学的検査所見:結節は全体的に硝子化しており,その内部には石灰沈着(Fig. 5a)と,紡錘形細胞(Fig. 5b)を散在性に認めた.結節近傍の筋層や粘膜下に単核球および顆粒球の浸潤を認めた.

Fig. 5 

Microscopic view of the nodule. (a) Calcifications in the nodule (arrows) (HE, ×100). (b) Spindle cells in the nodule (arrows) (HE, ×400).

免疫組織学的検査所見:少数の紡錘形細胞にvimentin,CD34との陽性反応を認めた.Ki-67陽性細胞は結節内にはほとんど認めなかった.結節内の紡錘形細胞にα-SMA,desmin,S100,CD117,ALKとの有意な陽性像は認めなかった(Fig. 6a, b).

Fig. 6 

Immunohistochemically, spindle cells in the nodule were positive for vimentin (a, ×400) and CD34 (b, ×400).

以上より,小腸壁内の結節は小腸壁原発のCFTと診断した.

術後経過:術後はイレウス症状の改善を認め経過良好であり,術後9日目に退院となった.術後半年,1年の腹部CTでも再発は認めていない.

考察

CFTはまれな良性腫瘍であり一般的には四肢や頸部の皮下および深部軟部組織原発のものが多く報告されているが,胸膜,腹膜,縦隔,肺,副腎,傍精巣,精索などさまざまな臓器を原発としたものも報告されている1).消化管原発の症例はまれであるが,食道2)や胃1)3)に発生した症例も報告されている.医学中央雑誌(1983~2014年)にて「calcifying fibrous tumor」or「calcifying fibrous pseudotumor」or「石灰化線維性腫瘍」or「石灰化線維性偽腫瘍」のキーワードで検索したところ(会議録は除く),小腸に発生したCFTの報告は2編4)5)のみであった(腹腔内・腸間膜多発例の報告は除く).これら2例に自験例を加えて表に示す(Table 1).

Table 1  Reported cases in the Japanese literature and our case of calcifying fibrous tumor of the small intestine
Case Author Year Age (y) Sex Symptoms Location Size Treatment
1 Murakami4) 2006 58 F Abdominal pain, vomitting Jejunum 1.8 cm Partial resection of the jejunum
2 Takeji5) 2013 30s F Anemia, intussusception Small intestine, intramural 2.0 cm Partial resection of the small intestine
3 Our case 69 M Abdominal pain Small intestine, intramural
(muscular layer)
1.0 cm Partial resection of the small intestine

CFTに特徴的な病理組織学的検査所見としては,紡錘形細胞の疎な増生と硝子化を伴う膠原線維の増生を認めること,炎症細胞の浸潤を伴うこと,砂粒体様などの石灰化巣を有することなどが挙げられる.免疫組織化学検査所見ではvimentinは陽性だが,α-SMA,desmin,S100,CD117,ALKなどは陰性と報告されている1).CD34に関しては通常は陽性6)だが陰性例の報告1)2)5)7)もみられる.本症例では病理組織学的に上記のような特徴を有し,また免疫組織化学的にvimentin,CD34陽性のごく少数の紡錘形細胞を認め,α-SMA,desmin,S100,CD117,ALKとの有意な陽性像はなく,CFTとしても矛盾はしない結果であった.

CFTの画像所見については,内部に石灰化が散在する腫瘤像として描出された症例の報告が散見されるが,本症例の腫瘤はCTにて均一で著明な石灰化を伴う病変として描出されていた.CTにて均一な石灰化を伴う小腸腫瘍を認めた場合でもCFTを鑑別に挙げる必要性が示唆された.

他の粘膜下腫瘍と同様に,本症例のごとく小腸CFTもイレウスの原因となりえることが想定される.小腸CFTを先進部として腸重積を発症した症例の報告5)8)もみられる.本症例では小腸筋層内に存在したCFTの慢性炎症が原因で漿膜に癒着が生じて腸管が屈曲し,これがイレウスの機転となっていたと推察された.

小腸CFTの治療としては小腸切除術の他に,海外では腫瘍核出術などの報告がある8).本症例ではイレウス解除のため,屈曲部位を含めて(腫瘍の存在部位に一致する),ある程度marginを確保して小腸切除術を行った.頸部に発症したcalcifying fibrous pseudotumorでは局所再発の報告があるため,切除の際にはある程度のmarginをとることの必要性が示唆されており9),結果的に上記の小腸切除術が本症例では妥当であったと考える.本症例では開腹手術を施行したが,状況次第では腹腔鏡手術も選択肢の一つとなると思われる.

小腸CFTは現時点では再発例は報告されていないが,他の部位で局所再発の報告があることから定期的な経過観察の必要性が示唆される.本症例においても術後は定期的な経過観察を行っており,術後1年の時点で再発は認めていない.現時点で長期予後は不明であり今後も経過観察を継続する予定であるが,今後CFTの症例報告が蓄積され長期予後を含めた臨床像がさらに明らかとなってくることを期待したい.

利益相反:なし

文献
 

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