抄録
症例は42歳の男性で,食事つかえ感を主訴に当科紹介受診となった.胸部下部食道に不整潰瘍性病変を認め,生検にて高分化腺癌と診断された.接合部には胃粘膜襞の口側終末部より口側に円柱上皮形成を認めバレット食道の併存を疑った.また,胃体上部小彎に粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認めた.右開胸食道亜全摘術を施行し,胃粘膜下腫瘍は胃管作成時に切除した.病理組織学的検査において胃粘膜下腫瘍は粘膜下層に主座をおく胃壁内転移と診断された.左胃動脈幹,左反回神経周囲リンパ節を含む16個のリンパ節転移を認めた.接合部では円柱上皮下の粘膜下層に固有食道腺を認め,バレット粘膜が併存していたためバレット食道腺癌と診断した.化学療法を1年間行い経過観察中であるが,術後41か月現在無再発生存中である.胃壁内転移を伴うバレット食道腺癌に対する外科治療の意義は明らかではないが,集学的治療は必須と考えられ,症例の蓄積が待たれる.