日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
IgG4関連硬化性胆管炎に併発した胆管癌の1例
上向 伸幸高橋 智昭中島 隆宏小林 敦夫平野 進長堀 優宇高 直子遠藤 格
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2016 年 49 巻 3 号 p. 207-215

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Abstract

症例は64歳の男性で,黄疸と肝・胆道系酵素の上昇を認め当院紹介となった.腹部CTでびまん性の膵腫大と肝門部から総胆管にかけての壁肥厚と下部胆管の狭窄を認めた.IgG4は254 mg/dlと高値であり,自己免疫性膵炎・IgG4関連硬化性胆管炎と診断したが胆管癌の鑑別も必要と考え胆汁細胞診を行い,Class IVが得られた.胆管癌を念頭におきつつステロイド治療を開始した.14日後のERCPで肝門部の狭窄は改善したが,下部胆管に一部不整な局面を伴うなだらかな狭窄を認め,細胞診でClass Vが得られた.下部胆管癌と診断し膵頭十二指腸切除術を行った.病理組織学的検査所見は膵臓・胆管に高度のリンパ球・形質細胞浸潤と中等度の線維化を認め,深達度ssの下部胆管癌を認めた.今回,ステロイド治療によりその局在を術前診断しえたIgG4関連硬化性胆管炎に併発した胆管癌の1例を経験したので報告する.

はじめに

IgG4関連硬化性胆管炎(IgG4-related sclerosing cholangitis;以下,IgG4-SCと略記)は,血中IgG4値の上昇,病変局所の線維化とIgG4陽性形質細胞の著しい浸潤,ステロイドが著効を示す,などを特徴とする原因不明の硬化性胆管炎であり,さまざまな胆管狭窄像を呈する疾患である1)2).近年,IgG4関連性疾患の症例数の増加とともに,その疾患概念は定着しつつあり,本邦においてもIgG4関連硬化性胆管炎臨床診断基準20121)が作成された.IgG4-SCはIgG4関連性疾患の胆管病変と考えられ,その多くはIgG4関連疾患の膵病変とされる1型自己免疫性膵炎(autoimmune pancreatitis;以下,AIPと略記)を高率に合併する.IgG4-SCの胆管像は多彩な胆管狭窄像を呈することから,原発性硬化性胆管炎をはじめとする良性疾患および胆管癌,膵癌などの悪性腫瘍との鑑別が重要である.今回,我々はIgG4-SCに合併した胆管癌の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

症例

症例:64歳,男性

主訴:全身倦怠感,掻痒感,黄疸

既往歴:特記すべきことなし.

家族歴:特記すべきことなし.

嗜好歴:喫煙 20本/日,40年.飲酒 なし.

現病歴:2012年9月,全身倦怠感,掻痒感,を主訴に前医を受診,黄疸を指摘され精査目的に当院紹介となった.

入院時現症:身長164 cm,体重59 kg.眼球結膜に黄染あり.腹部は平坦,軟.腫瘤触知せず.

入院時血液検査所見:総ビリルビン値の上昇,肝胆道系酵素の上昇を認めた.HbA1c 6.6%と糖尿病の合併を認めた.CEA 8.3 ng/ml(正常値5 ng/ml以下),CA19-9 131 U/ml(正常値37 U/ml以下)と腫瘍マーカーの上昇を認めた(Table 1).

Table 1  Laboratory data on first medical examination at our hospital
​Hematology ​Biochemistry
​ WBC 5,300/​mm3 ​ TP 7.1​ g/dl
​ RBC 426/​mm3 ​ Alb 3.7​ g/dl
​ Hb 13.7 ​g/dl ​ T-bil 12.7​ mg/dl
​ Plt 27.7/​mm3 ​ D-bil 9.3​ mg/dl
​ AST 47​ IU/l
​Coagulation ​ ALT 80​ IU/l
​ PT-INR 0.86 ​ ALP 1,420​ IU/l
​ APTT 29.6​ sec ​ γ-GTP 1,318​ IU/l
​ Amy 43​ IU/l
​Tumor markers ​ BUN 15​ mg/dl
​ CEA 8.3​ ng/dl ​ Cr 0.6​ mg/dl
​ CA19-9 131​ U/ml ​ Na 135​ mEq/l
​ DUPAN-2 120​ U/ml ​ K 4.5​ mEq/l
​ SPAN-1 37​ U/ml ​ Cl 101​ mEq/l
​ CRP 0.2​ mg/dl
​ Glu 152​ mg/dl
​ HbA1c 6.6​%
​ Total IgG >1,800​ mg/dl
​ IgG4 254​ mg/dl

腹部CT所見:左右肝管から総胆管にかけて造影効果を伴う壁肥厚を認め肝内胆管は拡張していた.膵内胆管は狭窄を呈し,胆囊壁は肥厚していた.膵臓は頭部で42 mm,体部で25 mmとびまん性に腫大し被膜様構造も認められた.膵管の拡張は認めなかった(Fig. 1a, b).

Fig. 1 

Abdominal CT findings. Coronal view shows wall thickening of the hilar and mid CBD (white arrow 1), and stricture of distal CBD (white arrow 2), and wall thickening of the GB (white arrow 3) (a). Horizontal view shows enlargement of the pancreas with a capsule-like rim without pancreatic duct dilatation (b).

術前経過:CT所見からAIP,IgG4-SCを強く疑いIgG,IgG4を測定するといずれも高値であり,IgG4-SC確診となる診断基準を満たした.しかしながら,腫瘍マーカー高値もあり悪性疾患の併存も念頭に置きさらに精査をすすめた.ERCPで主膵管はびまん性に不整狭細像を呈していた.胆管はカニュレーション困難で造影が施行できなかったためPTCDを行ったところ,下部胆管と肝門部胆管に狭窄を認め,IgG4-SCの胆管像の分類によるType 31)を呈していた(Fig. 2).PTCDからの複数回の胆汁細胞診によりClass II,Class IV,Class IIIb,Class II,Class II,の結果が得られ悪性病変の存在が強く疑われたが,その局在の判定は画像診断からは困難であった.FDG-PETは悪性腫瘍の検出に有用であるが,IgG4関連疾患でも集積が認められることから良悪性の鑑別には有用でないと考え今回施行しなかった.したがって,胆管癌の併存を強く疑いつつ,まずステロイド治療を開始し,繰り返し胆道造影,細胞診を行い胆管癌の精査を継続する方針とした.入院28日目よりプレドニゾロン30 mgで開始したが,開始後14日で再度ERCPを行いENBD留置に成功したため,PTCDを抜去した.ERCPでは総胆管から肝門部胆管の狭窄の著明な改善が確認されたが,膵頭部の狭窄は残存し,改善は軽度にとどまった.そしてさらにその末梢側に不整な狭窄像を認めた(Fig. 3).腹部CTでは膵腫大は約10%軽減し,総胆管から肝門部胆管の壁肥厚の改善が認められた(Fig. 4).ERCP時に再度擦過細胞診を行ったところClass Vが得られた.ERCの所見でも下部胆管に不整狭窄像が認められIgG4-SCに合併した下部胆管癌と診断しプレドニゾロン5 mgまで減量したのち手術の方針とした.

Fig. 2 

PTCD shows strictures at the hilar bile duct and the distal CBD.

Fig. 3 

ERCP shows improvement of the stricture at the hilar bile duct, rem­nants of the stricture at the distal CBD, and an irregular narrow segment at the further lower part of the CBD.

Fig. 4 

CT shows improvement in wall thickening at the hilar bile duct. A drainage tube was placed in the CBD.

手術所見:亜全胃温存膵頭十二指腸切除D2を行った.膵実質は全体に白色調で硬化し,また胆管周囲も硬化し,炎症性変化を認め剥離が困難であった.再建はChild変法で行った.手術時間は10時間4分,出血量は1,784 gであった.

切除標本所見:下部胆管に12×15 mm,結節膨張型の腫瘤を認めた(Fig. 5).

Fig. 5 

Macroscopic resected specimen showed a nodal type tumor 15×12 mm in size at the distal CBD (yellow arrow).

病理組織学的検査所見:核異形の明らかな腫瘍細胞が比較的保たれた腺腔構造を呈しながら漿膜下層に達しており,高~中分化腺癌と診断された(Fig. 6a, b).膵頭部のHE染色では高度のリンパ球・形質細胞浸潤があり,中等度の線維化を認めた(Fig. 7a).抗IgG4抗体を用いた免疫染色検査では,IgG4陽性形質細胞数が散見されたものの診断基準を満たさず,術前のステロイド治療が影響している可能性が考えられた(Fig. 7b).非癌部肝臓側胆管のHE染色においても膵臓と同様に高度のリンパ球・形質細胞浸潤と中等度の線維化があり,抗IgG4抗体を用いた免疫染色検査でIgG4陽性形質細胞が散見された(Fig. 8a, b).

Fig. 6 

Histological examination demonstrated a well- to moderate-differentiated adenocarcinoma infiltrating the subserosa.

Fig. 7 

Histological examination revealed marked lymphoplasmacytic infiltration and fibrosis in the resected pancreatic parenchyma (a). Immunogloburin (Ig) G4 immunostaining revealed occasional IgG4-positive plasma cells in the resected pancreatic parenchyma (b).

Fig. 8 

Histological examination shows lymphoplasmacytic infiltration in the fibrously thickened proximal part of the resected common bile duct (a). Immunoglobulin (Ig) G4 immunostaining revealed IgG4-positive plasma cells infiltrating occasionally in the fibrous common bile duct (b).

術後診断:下部胆管癌(tub 1-tub 2),結節膨張型12×15 mm,ss,pHinf0,pGinf0,pPanc0,pDu1,pPV0,pA0,pN0,pHM0,pDM0,pEM0,int,INFβ,ly0,v0,pn1,Stage II,根治度A(胆道癌取扱い規約第5版).

術後経過:術中術後を通し,ステロイドカバー療法を必要とした.Grade Bの膵液漏を認めたが保存的に軽快し,術後28病日で退院となった.退院後はプレドニン5 mg/日で継続しており,術後IgG4は基準値内で経過している.術後2年経過し再発を認めていない.

考察

2002年に世界に先駆けて日本膵臓学会から「自己免疫性膵炎の診断基準」が提唱された.その後,IgG4関連疾患という概念が提唱され,胆管病変であるIgG4-SCは2004年にZenら3)により独立した疾患概念として提唱された.近年,厚生労働省IgG4関連全身硬化性疾患の診断法の確立と治療方法の開発に関する研究班,厚生労働省難治性の肝胆道疾患に関する調査研究班および日本胆道学会は合同で,IgG4関連硬化性胆管炎臨床診断基準2012を発表した1)2).この診断基準に照らし合わせ,本症例は胆道画像診断でIgG4-SCの胆管像分類におけるType 3(下部胆管と肝門部胆管に狭窄を認める)であり,高IgG4血症(>135 mg/‍dl),AIPの合併を認め,IgG4-SCと確診できた.また,ステロイド治療に対する反応も良好であった.

IgG4-SCにおいて胆管癌との鑑別は重要である.どちらも胆管壁の肥厚・狭窄所見を呈し臨床症状も同様の疾患であるが治療法が全く異なる疾患である.鑑別診断の困難さゆえにIgG4-SCが胆管癌や膵癌と診断され外科切除された症例報告が散見される3)~10).その鑑別には造影CTでの壁の厚さや形態,造影状態が有用との報告11)や,胆管腔内超音波内視鏡検査(intra-ductal ultrasonography;IDUS)や超音波内視鏡検査(endoscopic ultrasonography;EUS)における肥厚した胆管壁形態の差異が指摘されている12)13).これらの報告によれば,IgG4-SCの壁肥厚は,全周性,対称性を呈し,内・外側縁は平滑で内部均一なエコー像を呈することが多く,さらに胆管の非狭窄部位にも壁肥厚を認めることが最も重要な所見とされている.一方,胆管癌では壁肥厚は全周性であるが非対称なことが多く,深達度によって外側縁エコーは途絶を来し,内側縁は不整で内部エコー不均一を呈することが多いとの報告がみられる.また,内視鏡的胆管生検は胆管癌を除外するにはある程度有用と考えられるが,IgG4-SC診断能に関しては0~88%とその成績は報告者によってさまざまである7)14)15)

IgG4-SCに胆管癌が併発することはまれであり,医学中央雑誌(1977年~2014年)およびPubMed(1950‍年~2014年)で「IgG4関連硬化性胆管炎」,「胆管癌」,「自己免疫性膵炎」,「IgG4-SC」,「cholangiocarcinoma」,「AIP」をキーワードに検索したかぎりでは国内外で自験例を含め5例の報告があるにすぎない(Table 216)~19).全例男性で黄疸を主訴とし,胆管像は本症例以外全て下部胆管のみに狭窄を来すType 1を呈していた.胆管癌の確定診断は1例が内視鏡的胆管生検,他4例は細胞診によってなされていた.本症例においては血液検査,胆管像からはじめにIgG4-SCと確定診断され,胆管癌を除外する目的でステロイド治療前に5回の胆汁細胞診を繰り返し行い,Class IIからClass IVが得られた.木村ら20)によると胆汁細胞診で陽性率95%以上を得るには最低6回の検査が望ましいとされており,本症例でも6回目のERCPによる擦過細胞診でClass Vが得られた.胆汁細胞診は簡便で癌細胞の検出率も高く有用であると考えられる.胆管癌の併存が認められた場合,次に重要となるのは局在診断である.癌組織への到達が可能であればIDUSにて壁の不整肥厚像を検索し,経乳頭的胆管生検で胆管癌の診断に至るのが最良の方法と思われるが,膵炎,胆管炎の存在下では癌組織の同定が症例によっては困難となる.表のOhら16)の報告では,炎症による高度の狭窄のため,初回のERCPが不成功となったが,PTCDで減圧後経皮的胆道鏡で生検し,胆管癌の局在診断が行われた.その他の症例は胆汁細胞診あるいは狭窄部の擦過細胞診で胆管癌と診断され,胆管造影が下部胆管のみに狭窄像を示すことによって局在診断がなされていた.本症例では,当初ERCPは困難であったが,PTCDによる胆汁細胞診でClass IVが得られた.胆管造影上は他症例と異なり肝門部胆管と下部胆管に狭窄を示すType 3であり癌の局在判定は極めて困難であった.理想的にはPTCDから胆道鏡下に生検するところであるが瘻孔化に時間を要すること,侵襲的であることから,今回,我々は比較的早期に効果判定が可能でありかつ非侵襲的なステロイドに対する治療反応性から腫瘍の局在診断を行うことを目的としてステロイド治療を開始した.開始2週間後に施行したERCPの胆管像で肝門部の狭窄は改善した一方で下部胆管の狭窄部は残存し,擦過細胞診にてClass Vが得られたため,下部胆管癌と局在診断しえた.結果としてIDUSや胆道鏡を用いずに胆管断端癌陰性の治癒切除を行うことができた.

Table 2  Clinicopathological features of cholangiocarcinoma with IgG4-related sclerosing cholangitis
Case Author/
Year
Age/Se‍x Chief complaint Stricture lesion/Type Diagnosis method of carcinoma Operation Location of carcinoma Pathology
1 Oh16)/
2008
59/M Jaundice Distal CBD*
Type 1**
Endobiliary biopsy Pancreaticoduodenectomy Distal CBD Carcinoma in situ
2 Kakinoki17)/
2010
71/M Jaundice Distal CBD
Type 1
Cytology Total pancreatectomy Distal CBD Well to poorly adenocarcinoma, sx, N1, Ginf0, Panc2, Du0, INFγ, ly3, v2, pn0
3 Ohtani18)/
2011
64/M Jaundice Distal CBD
Type 1
Brush cytology Pancreaticoduodenectomy Distal CBD Carcinoma in situ
4 Kanomata19)/2012 62/M Jaundice Distal CBD
Type 1
Cytology Pancreaticoduodenectomy Distal CBD Carcinoma in situ
5 Our case 64/M Jaundice Hilar and distal CBD
Type 3
Brush cytology Pancreaticoduodenectomy Distal CBD Well to moderately adenocarcinoma ss, N0, Ginf0, Panc0, Du1, int, INFβ, ly0, v0, pn1

CBD*: common bile duct, Type**: schematic classification of IgG4-SC5)

担癌患者ではステロイド投与は病勢を増す危険性も懸念される.Table 2に示した他の4症例において,術前ステロイド治療は行われていなかった.本症例では肝門部と下部胆管に狭窄があり,細胞診でClass IVが検出されていた.悪性病変の局在が明らかでない状態で術式の決定に苦慮したためIgG4-SCの治療を開始しながら胆管癌の精査を継続することとした.安易なステロイドトライアルは前述のごとく悪性病変が存在した場合その病勢に影響を与えたり,診断の遅れを招く恐れがあり厳に慎むべきであるが,本症例のようにIgG4-SCと診断され,癌の併存がほぼ確実な状況で局在診断が困難な状況においてステロイド治療2週間で評価できる胆管狭窄の改善所見は診断の有用な一助になりうると思われた.また,ステロイド治療による術後合併症の増加も危惧されるが,本症例においては術後Grade Bの膵液漏を合併したが術前ステロイド治療の影響を強く疑う経過ではなかった.

IgG4-SCと胆管癌の合併については,これまで症例報告が少なく,現時点では因果関係があるとは考えにくいが,一方でIgG4-SCでは胆管上皮のK-ras変異を高頻度に認め,発癌の危険性を示唆する報告もある21).また,胆道癌細胞周囲にIgG4陽性形質細胞が多く認められる症例も報告されている22).これらについては更なる症例の蓄積と検討が望まれる.

利益相反:なし

文献
 

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